農民や漁民のデモをフィリピン軍が監視している
ドゥテルテ政権での超法規的殺害は、日本にとっても無関係ではない。2017年1月、フィリピンを訪問した安倍首相は「5年間で官民あわせて1兆円規模の支援を行う」と発表している。ドゥテルテ政権にとって日本は最大の支援国だ。
国際法律家協会副会長の笹本潤弁護士は会見で「ドゥテルテ政権への開発援助は、日本政府の開発協力大綱に反する」と指摘する。
「開発協力大綱では、民主化の促進や基本的人権の保障にも十分注意を払うことが明記されています。しかしドゥテルテ政権下では超法規的殺害が頻発し、政権に批判的な政治家やジャーナリストが公に弾圧されるという、大綱の基準と著しく乖離した状況があります」(笹本弁護士)
フィリピンでの超法規的殺害については、国際刑事裁判所(ICC)が予備調査に着手した。しかし、これに反発したドゥテルテ政権は今年3月、ICC条約から脱退するという暴挙に出ている。笹本弁護士は「ドゥテルテ大統領は、自身が人道に対する罪を行っているとの自覚があるのでしょう」と指摘した。
笹本弁護士
日本が自衛隊装備をフィリピン軍へ譲渡していることも問題だ。
「日本とフィリピンは2016年に防衛装備品・技術移転協定に署名しました。自衛隊の小型飛行機TC-90を5機、多用途ヘリコプターUH-1Hを無償譲渡するなど、防衛協力を深化させています。
フィリピンの人権状況は、防衛装備移転三原則で禁じられた『当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合』に該当します。また、日本が締結した武器貿易条約でも、重大な国際人権法・国際人道法違反にあたる場合は武器の移転が禁じられています」(笹本弁護士)
会見では、在日フィリピン人の男性も発言した。
「フィリピンがどうなるか、とても不安です。ドゥテルテは、彼を批判する者、立ち向かおうとする者を許さない。弁護士もジャーナリストも政治家も、かまわず殺そうとします。
ドゥテルテは貧しい者の味方として台頭しましたが、結局は独裁者となりました。彼のやっていることを放置するなら、(20年間フィリピン大統領として汚職や人権侵害を行っていた)マルコスよりひどい独裁者になるでしょう」
フィリピンにとって最大の支援国である日本は、大きな影響力を持っている。しかし、この会見には主要メディアの記者は皆無。参議院議員会館で行われたにもかかわらず、国会議員も来なかった(秘書は参加)。日本での無関心こそがフィリピンの人々を苦しめているという自覚が、もっと必要なのかもしれない。
<文/志葉 玲>