札幌女児の虐待死、児相の労働環境の改善と虐待自体を防ぐ仕組み作りを

虐待に無関心な政治家

 今年5月、筆者の呼びかけで、大阪在住者を中心とするネット市民が地方統一選挙の直前に大阪府内の政治家661名に虐待防止策を尋ねた(※国会議員・府知事・市長・府議会議員・市議会議員)。「虐待サバイバーの手紙読んでや!」プロジェクトというものだが、回答があったのは堺市議3人だけだった。  大阪府は、子ども虐待の認知・通報件数が5年連続で全国最多だ。地元の政治家のほとんどが防止策を回答できなかったのは、大阪府民の有権者が虐待に無関心な人ばかりを当選させてきたからだろう。  親に虐待されても必死に生き延びてきた虐待サバイバーたちの手紙を、読みもせずにつっ返してきた議員すらいた。府民が虐待防止を選挙の争点にしなかったツケは、子どもが親に虐待されることで払い続けていく。

虐待サバイバーの提案に耳を傾けよう

 もっとも、こうした惨状を憂いてばかりでは、らちがあかない。主権者としては、虐待防止策を政治家と一緒に考えるチャンスを作り出す必要がある。  筆者は2017~2018年、全国各地で子ども虐待防止策を市民みんなで考える講演会に出向いた。各地の虐待サバイバーの市民が地元の仲間をネット上から集めて開催してくれたのだ。  今年も虐待防止策の講演会の主催者をtwitterで募集中だが、昨年までの主催者や参加者は新たな子ども虐待防止アクションを始めている。  講演会場では、必ず冒頭にサバイバーたちから被虐待の経験が語られる。しかし、これまで会場に地元の政治家が足を運んだのは東京・千葉・群馬・福岡・岡山・鳥取だけで、ワースト1の大阪では3回も開催されたのに政治家が一人も来なかった。  ここ30年間、全国で年間13万件以上も増え続ける一方の虐待相談数を見れば、児童福祉分野の識者・専門家へのヒアリングで作られた防止策が失敗続きなのは明らかだ。そのため、講演会では親に虐待された当事者から具体的な提案を聞く。  たとえば、こんな提案があった。妊娠発覚から父親に産婦人科が父子手帳を発行し、虐待とは何か、親権者の責任、子どもの人権を明記する。同時に、出産まで医療ソーシャルワーカーによるプレパパ研修を開催し、父子手帳の内容に対する理解を深める。必要なら無料でカウンセリングを受けられるようにし、福祉制度や育児の基礎知識を学べるようにもする。  これだけでも、虐待のつもりがなく死なせてしまう「揺さぶり死」やそれによる逮捕を減らせるし、父親自身が子どもの頃から虐待されてきた場合には、そのことを自覚するチャンスになる。そのため父親が妻子を支配する危険性を抱えている場合、事前に虐待や暴力を予防することもできる。  厚労省の発表によると、児相に寄せられた虐待相談の対象年齢は小学生が一番多く、次に3歳まで、それから3歳未満の乳幼児となっている(※右が相談件数。左が対象児童数)。  子どもが育っていけばいくほど、虐待のリスクは高まるのだ。  幼稚園や小学校で保護者を対象にした子ども虐待の基礎講座を提供し、親に気軽にカウンセリングを受けてもらえる空気を作っていく事業も、虐待を自覚させ、未然に防ぐ取り組みになる。  公立の学校や病院を動かすのだから、有権者のあなたは地元の自治体の議員に「予算をつけろ」と要求できる。運営を民間に委託すれば、費用対効果の良い事業にも育てられる。  こうした対策を実現するために、誰にでもできることがある。政治家に、「超党派の議員連盟を作り、虐待サバイバーや市民と一緒に虐待防止策を考える勉強会を開催してほしい」とメールで要望するのだ。「べき」論を唱える時間があるなら、ぜひ取り組んでみてほしい。 <文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。 1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。 その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。 著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。
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