筆者は、自殺や家出、虐待や家族に関する本を執筆・編集している。そのため、家族関係で悩んでいる10代から相談メールが届く。そのほかにも、深夜の町で声をかけた未成年から相談される経歴も30年ほどになる。
そうした相談内容を基に、「家族の許可を求めずに家を飛び出した未成年」の動機を区別すると、以下のように異なっている。
1.深夜徘徊
深夜にクラブや飲食店に出入りし、朝帰りする。それが楽しいからやっているだけなのに、条例で夜10時以降にファミレスやカラオケ店などに入れないため、警察に補導されかねない不安から、年齢詐称をしても夜遊びをくり返すことも。
2.自殺・心中
死にたくて家を出たものの、勇気がなくて自殺できずに帰宅したり、心中相手のはずだった人と合意に至らず、失敗するケースも少なくない。ただし、2017年に神奈川県で起こった座間9遺体事件のように、自殺でなく、殺されるケースもある。
3.自分探しの旅
家庭や学校より広い世界が知りたくて、遠方へヒッチハイクやバイクなどで出かけるもの。家族に許可されないのがわかっているので、あえて言わずに家を飛び出し、家の外のスリルを楽しもうとする。
4.漂流(プチ家出)
親から虐待される日々に耐えられなかったり、家にいると息が詰まる感覚があるため、憂さ晴らしでしばらく家を空けては戻ることをくり返す。虐待されていることに無自覚だったり、児相の存在を誰からも教えられていないため、福祉制度は利用しない。
家や学校で演じる「大人にとっての都合の良い子」の自分に疲れてきっているため、誰の子どもでもなく、どこの生徒でもない「誰でもない自分」になりたくて、あてもなく街を歩いたり、売春で宿泊費や交通費を稼いだり、知らない人の家を転々とすることも。
5.家出
家族が虐待や支配によって自分の心身や命、将来に危険や不安をもたらしていることを自覚したため、自衛のために家族の知らない安全な生活拠点へ引っ越すこと。恐ろしい家に二度と帰りたくないので、親バレやリスクのある行動を避け、なるだけ早く定住先と定職を得て、一刻も早く生活の安定をはかろうとする。
こうして未成年が家を出る動機を見てみると、1~4が家出の実態からは遠く、「家出」と呼ぶには無理があることがわかる。家族の許可なしに家を飛び出しただけでは、ただの無断外出にすぎない。警察や内閣府が、家出人のほとんどが犯罪被害とは無縁に生きている現実を示している。現実は、親の不安どおりではないのだ。
他方、家出できない子についても知ってほしい。
日本は他国と比べて自殺が多いが、全年齢でいえば、過去10年間で1万人ほど自殺者数を減らしてきた。それなのに、人口10万人あたりの自殺者数を表す自殺死亡率は、19歳以下の未成年の場合、5%前後で推移し、あい変わらず高いままだ(※実数は年間500~600人程度)。
遺書等の自殺を裏付ける資料で明らかに推定できた原因・動機を自殺者一人につき3つまで計上可能とした統計「平成30年中における自殺の状況」を見ると、19歳以下では学校問題(188人)、健康問題(119人)、家庭問題(116人)が上位を占めた。
しかも、自殺者全体のうち、無職者(※成人を含む)を見ると、学年が上がるにつれて自殺者数も増えていた。
学校や家庭での暮らしに疲れ、心身の健康を害する若い世代の苦しみが、大人によって放置されている現実がうかがい知れる。
今年3月、厚労省が2017年の人口動態統計を発表し、戦後初めて日本人の10歳から14歳までの死因で自殺が1位になっていたことが話題になった。2016年における死因順位別にみた統計でも、15歳から39歳までの死因1位は自殺だった。
学校内のストレスなら、親が不登校に寛容になれば、軽減できるかもしれない。しかし、子どもを虐待する親や、子どもの切実な訴えを聞かない親なら、家庭は子どもが安心して生きられる居場所ではなくなる。
しかも、父親から性的虐待を受けても無罪になる判決をネットで目にすれば、同じ目に遭っている子は、家にい続けることに絶望を感じてしまうだろう。
子どもがそうした家庭環境に苦しみ、疲れ果て、死を選んでしまう前に、経済的に自立できる自立の方法とその覚悟を教えるチャンスがあってもいいのではないか?
そして、家出の現実を知らないまま怖がる前に、子どもも大人も現実の家出人から話を聞くチャンスを増やしてもいいのではないか?
昨年、筆者は筑波大生が企画した児童虐待防止イベントに招かれ、講演した。その話を聞いた大学生・山口和紀さんは今年、
『100人の体験記 大学生版 家出マニュアル』というプロジェクトを立ち上げ、公募した体験記を次々にnoteで公開し始めた。18~19歳の未成年は、虐待されても児童相談所でほぼ保護されないからだ。
筆者も、
『21世紀版 完全家出マニュアル』をnoteで書き始めた。学校や家庭では教えてくれない自立の方法を教え、10代の生活力を準備させたい。それが、家にいられなくなった時にやけを起こさず、自分の暮らしと心身を守る生存戦略だからだ。
<文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。
1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。
その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。
著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。