Elnur / PIXTA(ピクスタ)
「警察呼びましたから!」
債務者宅の玄関を開けるなり、債務者の義理の息子にあたる人物より叫び声をあげられた。
隣には債務者義理の息子のそのまた息子に当たる人物も並び、二人で我々を一歩も通さんと玄関先で凄んでいる。
どうも凄み慣れておらず、小刻みに二人が震えている点からも事情を掴みきれていない可能性を察知した執行官は、彼らの言い分を聞いてみることに。
「いきなり数百万円を用意しろだ、突然家に押しかけてくるだ、そんなの典型的なオレオレ詐欺ですから。もう通報してありますんで逃げられませんよ!」
なるほど。今発生していることだけを考えれば、確かにオレオレ詐欺と言われても仕方がない。
とは言え、執行官は債務者と密な連絡を取り合い、日程の調整なども行ってからこの日の執行に至っている。
通常であればこのようなトラブルに発展する可能性は極めて低い。
今回の一件では、本来家族に事情を説明しなければならないハズの債務者本人が家におらず、両者の食い違いは平行線をたどる形となっていた。
さて、どうしたものか。
「ひとまず警察さんが来るまで待ってもいいんですが、結局お家の中にあがらせて頂くことにはなるかと思いますので」
そう一言告げ、警察の到着を待つことにすると、債務者義理の息子が経緯を語り始めた。
「先週おじいちゃん(債務者)宛に届いてた不動産執行の通知をおばあちゃんが見つけて、おばあちゃんが倒れちゃったんですよ。おじいちゃんに聞いても“そんなの知らない”って言うし、書いてある裁判所に連絡しても電話がつながらなかったんで、詐欺だと思って通報しました」
当初より口調が柔らかく変化している。
どうやら債務者義理の息子も警察の到着を淡々と待つ我々の様子に、詐欺師ではない可能性を感じ取りつつあるようだ。
実際、裁判所の電話が繋がらなかったという点に関しても、債務者義理の息子が日曜日に電話をしていためであった。
「ガチャ」
5分ほどして玄関扉が開いた。
少し早めに警察が到着したのかと思いきや、現れたのはバツの悪そうな表情を浮かべる債務者(おじいちゃん)だった。
「ご家族に説明されてなかったんですか?」
無言で頷く債務者の姿にようやく家族も事情を飲み込んだ様子で、そのまま警察への通報は取り下げられた――。