2007年にアップルは「iPhone」を世に送り出した。フルブラウザでインターネットを閲覧出来る「iPhone」は、「Adobe Flash」に対応しなかった。
当時のアップルのCEOスティーブ・ジョブズは「Adobe Flash」を嫌った。理由のひとつは、「iPhone」上のApp Storeとの競合があるだろう。しかしそれ以前に、パソコンで成長した「Adobe Flash」は、モバイルの限られた性能で、その力を発揮することが難しかった。「Adobe Flash」は「iPhone」の体験を劣化させる大きな原因となりかねなかった。
2010年にスティーブ・ジョブズは、自社のサイトに「Adobe Flash」をサポートしない理由を掲載した。
その第一はオープン性の欠如である。「Adobe Flash」は開かれた技術ではなく、Adobeが100%の所有権を持っている。それよりもオープンな技術であるHTML5を使うべきだとした。
理由はさらに続く。「Adobe Flash」に頼らなくてもよいこと、信頼性、セキュリティ、そしてパフォーマンスの問題があること、また電池の持ちが悪くなること、タッチ操作を想定していないことを、スティーブ・ジョブズは挙げた(参照:
Apple)。
モバイルの時流に上手く乗れなかった「Adobe Flash」は、最終的にWebの世界からシェアを失った。
再生機器やプログラムが必要なデジタルコンテンツは、そのまま読める本や石版よりも寿命が短いことが多い。2000年代初頭に流行ったFlashコンテンツの閲覧は、2020年末の「Flash Player」の開発および配布終了後は困難になるだろう。
たった20年も経たずに、日本を席巻していたコンテンツの多くが、アクセスできなくなる。知識がある人ならば環境を構築できるだろうが、大多数の人はそんな労力を掛けてまで利用しようとは思わないだろう。そして100年も経てば、再生方法すら分からなくなっている可能性がある。
デジタルデータとインターネットの時代になり、世の中のコンテンツは爆発的に増えた。しかし、それらは一過性のもので、ほとんどが埋もれて消えていくのかもしれない。全人類の活動の記録を残すには、新しい革命的な何かが必要になるだろう。
◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース
<文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『
裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『
レトロゲームファクトリー』。