そして、その根強いモラ文化により、自らを家長と信じるモラ夫は、妻を支配する。その支配は、大概、残虐である。前述した事例のように、妻をうつ症状に追い込む程、毎日、妻をディスり、いじめ続けて、「仲が良かった」などと平然と言うのである。
本来、愛し、助け合うべき存在である夫から日常的な加害を受け続けると、妻は、精神的に追い詰められ、場合により心身症になる。被害妻からみると、ここまで残虐で、加害を続けるモラ夫に精神的/人格的異常があると思いたくなるのは、人情だろう。
しかし、妻に加害する男性の更生支援の専門家であるランディ・バンクロフトによると、精神その他の異常、障害がみつかる割合は、加害男性と一般男性とで違いはないという(ランディ・バンクロフト「DV・虐待加害者の実態を知る」明石書店)。
自らを支配者と規定したとき、人はどこまでも残虐になれる
ところで、妻を言葉や態度でイジメ続ける加害男性の多くは、妻に直接の暴力を振るわない。すなわち、社会的に許されている(と彼が考える)範囲内でのイジメにとどめるのである。これは、モラ夫の「正常性」を示す証拠であり、かう、モラ夫の原因が社会的文化的規範にあることを示している。
自らが支配者であると信じるとき、人は残虐になれる。おそらく、ヒトの性(さが)だろう。それは歴史が証明していることであり、日常、私たちが体験していることでもある。疑う向きは、横暴な上司、毒親、モラ夫に対して、ため口を聞いて逆らってみればよい。おそらく、彼らの残虐さを実感できるのではないか。
すなわち、モラ夫の多くは、残虐であっても、「正常な」男性たちであり、決して精神的/人格的異常なわけではない。正常な男性がモラ夫になる、ここに、この問題の根深さがある。
時代の変革期においては、社会的文化的規範群は葛藤に晒される。夫婦同姓強制主義は、法廷闘争等で揺さぶられてきた。Me too運動で、セクハラやセクハラ文化に対する問題提起がなされている。同性婚など、結婚の在り方も問われている。私も、モラ文化を葛藤のなかに放り込みたいと願っている。
葛藤の結果、社会的文化的規範が変化し、日本社会が前進する。そう信じたい。
【大貫憲介】
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『
入管実務マニュアル』(現代人文社)、『
国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『
アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター(
@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中