では海外の事例を見てみよう。米国では今、2つの巨大石油会社が札束で殴り合うような買収合戦を展開している。同業のアナダルコを巡って、世界6大石油メジャーの一つ、シェブロンが総額500億ドル(5兆5000億円)での買収を表明すると、準メジャーのオクシデンタルが6兆3000億円に買収価格を引き上げて参戦してきた。米国ではこの程度の規模の買収は珍しくないが、日本における昨年のM&Aは総額40兆円であることを考えると、いかに巨額かがわかるだろう。
こうした巨大M&Aの背景には、独り勝ちともいえる米国の景気の好調がある。「業績が上向き、他社を買う余力の増した企業が多い」と話すのは、大和証券・チーフグローバルストラテジストの壁谷洋和氏だ。
冒頭の例は、メキシコ湾などでの採掘権益を持つアナダルコの買収で業績の急成長を狙った「攻めのM&A」。企業同士で株式を持ち合う日本とは異なり、「米国の企業経営者は成長戦略として必要と判断すれば買収に動き、株主はシンプルに経済合理性で動く土壌がある」と壁谷氏は日米の違いを指摘。
’08年のリーマンショック後は救済型の買収が多かった。金融大手メリルリンチがバンク・オブ・アメリカに買収されたのが典型で、業績が悪化した企業に資金を出して買収リスクを取れたのは投資銀行やファンドなどの一部の金融機関に限られた。しかし、ここ数年、投資銀行は“脇役”になりつつあり、世界的なM&Aの潮流は事業会社同士の買収合戦に移っている。日本では伊藤忠がデサントに敵対的TOBを仕掛けた。これは世界の潮流に沿った動きでもあるのだ。
【永濱利廣氏】
エコノミスト。跡見学園大学非常勤講師。専門は経済統計・マクロ経済分析。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーターも務める
【鈴木一功氏】
早稲田大学大学院経営管理研究科教授。富士銀行(現みずほ銀行)でM&A部門チーフアナリストを務める。M&A関連の記事を多数寄稿
― 敵対的買収が増えるワケ ―
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蟹・甘党 via Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)>