ここで少し、Huaweiという会社について触れておこう。
Huawei Technologies Co., Ltd.(華為技術)は、中国深圳市に本社を置く会社だ。設立は1987年。携帯電話のインフラ用通信機器を開発する会社としてスタートした。当初は中国国内で活動をしていたが、2000年代以降は海外に事業を展開する。そして2012年には売上高でエリクソンを超えて世界最大の通信機器ベンダーとなる(参照:
Wikipedia)。
同社がAndroidスマートフォン市場に参入するのは2009年だ。同年2月に初となるAndroidスマートフォンおよび、T-Mobileとの提携を発表した。ただし、この端末事業はあくまで傍流だった。OEMとして端末を開発していたため、世間での知名度は低かった。その戦略を2013年に転換して、スマートフォン市場を取りに来た。
躍進の結果、2016年には8.9%のシェアを取り、アップル、サムスンに次ぐ第3位の地位を獲得する。この間、2015年には、グーグルと「Nexus 6P」を共同開発している。そして、2018年第2四半期は、スマートフォン出荷台数が世界第2位となる(参照:
HUAWEI JAPAN、
BUSINESS INSIDER JAPAN)。
こうした一般消費者向けの製品展開に伴い、企業の知名度も上昇していった。
Google トレンドを見てみると、2015年頃から検索数が継続して伸びていることが分かる。その頃から、日本でも名前を見かけるようになったというわけだ。
非上場企業である同社は、売上高の10%以上を継続して研究開発に投資しており、その巨額の研究開発費でも知られている。2018年時点での従業員数は18万8000人。収益は1051億ドル。ちなみに、Googleを擁するAlphabetの収益は1368億ドル。その規模感が分かると思う(参照:
Huawei – Wikipedia、
Alphabet Inc. – Wikipedia)。
アメリカ対中国の構図は、ここ数年深刻度を増している。経済的な問題だけでなく、影響力を行使する地域の綱引きもおこなわれている。そうした駆け引きの中に、ITも含まれている。
ITは現代のインフラだ。通信機器を制して、その情報を一手に握ることができれば、そのインフラを支配下における。GoogleやFacebookという企業の動向が注目されるのは、そうしたインフラの一端を握っているからである。
Huaweiも、そうしたインフラを握る会社のひとつだ。Googleなどとは違い、通信機器という物理的インフラで存在感を示している。スマートフォン事業への打撃は、Huaweiに対する攻撃の一側面に過ぎない。安全保障のために、各国が通信機器の排除を進めていけば、元々の事業に影響が出る。業界の勢力図が大きく変わるだろう。
第二次世界大戦の時期に、石油の確保が重要だったように、現代ではITというインフラが重要になっている。そして国家間のつばぜり合いの道具に、IT企業がなっている。
アメリカと中国の争いは、新たな冷戦を産み出すのか。日本は米中の争いからは逃れられない。二つの大国の争いが大きく発展しないように願わずにはいられない。
◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース
<文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『
裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『
レトロゲームファクトリー』。