小川:最近では宗教が力を失っていると言われることが多くなっています。しかし、現在の状況を踏まえると、宗教というよりも宗教団体が力を失っていると見たほうが正確だと思います。どの宗教団体も、信者に新聞や雑誌を買わせたり、選挙に動員したりする組織力がなくなっています。
典型的なのが創価学会です。私は先日大阪に取材に行きましたが、関西では創価学会は「常勝関西」と呼ばれ、民主党への政権交代など例外はあるものの、基本的には選挙に勝ち続けてきました。
関西の創価学会には西口良三氏というドンがいて、池田大作氏を凌ぐほどではありませんが、大きな力を持っていました。そのため、関西の創価学会はほとんど治外法権に近い状態だったのです。
菅野:『新・人間革命』でも西口氏は池田氏の盟友のように扱われています。
小川:しかしここ10年、大阪を牛耳ってきたのは創価学会ではなく維新の会です。彼らは大阪で強い勢力を維持し、良くも悪しくも大阪をかき乱してきました。これに対して、創価学会は維新の会と喧嘩せず、大阪の公明党は事実上、維新の会と連立を組んでいました。
とはいえ、関西の創価学会の中には「いつまで松井一郎にペコペコするのか」といったマグマが溜まっていました。それが爆発したのが大阪ダブル選挙です。関西の創価学会は「維新の会と戦っても俺たちは負けない」と主戦論を唱えたため、創価学会会長の原田稔氏は関西の言う通りにやらせるしかないとして、これに同調せざるをえなくなったのです。同調というよりも、さじを投げたと言ったほうがいいかもしれません。
菅野:大阪ダブル選挙の対応をめぐる会議を行った際、学会幹部が途中で会議の場から姿を消したとも言われていますね。
小川:ところが結果は公明党のボロ負けでした。創価学会の活動家たちはみな年をとっており、かつてのような働きができなくなっています。創価学会の若い2世や3世は池田大作氏を見たこともないですし、熱心に活動しているのはごくわずかです。冷静に考えてみれば当たり前の話なのですが、組織の中にいるとこうした現実が見えなくなるのかもしれません。
菅野:それは大阪だけでなく沖縄にも言えます。私は沖縄3区の補選を取材したのですが、この選挙には自民党や公明党の支援する島尻安伊子氏と、野党の支援する屋良朝博氏が出馬しました。しかし、屋良陣営には創価学会員たちも応援にかけつけ、屋良氏の当選が発表されたときには事務所の後ろで創価学会の三色旗がはためいていました。
かつてであれば、この学会員はすぐに査問にかけられたと思います。しかし、いまの創価学会にはもはやその力がないのでしょう。
小川:結局のところ、創価学会は池田大作氏の「ファンクラブ」にすぎないのです。もちろんキリスト教であれイスラム教であれ、いかなる宗教も立ち上げのときは教祖のファンクラブです。しかしその後、教学の理論が組み立てられ、2代目、3代目へと継承されていきました。創価学会は最近、この継承がうまくいかなくなってきた。創価学会でさえ成功していないのだから、他の新興宗教にはとても無理でしょう。
菅野:今後、宗教界を待ち受けている大きな問題は、大量死時代の到来です。あと5年もすれば、団塊の世代が次々に亡くなっていきます。これまでの年間死亡者数とは桁違いの死者が出る時代がもう目前まで迫っている。
団塊の世代自身は自分の親から自分の家のご宗旨などを教わっているでしょう。しかし、彼ら自身は学生運動をやりながらギターを弾いていたような人たちです。自分の子ども、つまりいまの団塊ジュニア世代に、家の宗旨を教えているとは思えません。自分の親をどのように弔えばよいのか知らない人が増えているはずです。
そもそも団塊ジュニアたちは、バブル崩壊後の就職氷河期に直面し、いまでも貧困に喘いでいます。親の介護や葬式に出せるお金はありません。核家族化も進んでいるため、団塊の世代からは孤独死もたくさん出るでしょう。
古今東西、人類は太古の昔からそれぞれの形で死者を弔ってきました。しかし、私たちはいま、それができなくなる時代を迎えようとしているのです。そうなったとき社会はどうなるのか。僕は社会の中にとてつもない喪失感が生まれるのではないかと心配しています。
小川:大量死時代には葬儀のありかたが重要になりますが、創価学会などの一部例外を除き、そもそも立正佼成会や真如苑などの一般的な新宗教は葬儀を行わないという問題もあります。
これにはいろんな説があるのですが、一つは、葬儀をすると伝統仏教との軋轢が強まるため、しないことにしたとするものです。もう一つ言われているのは、新宗教は伝統仏教を「葬式仏教」と馬鹿にし、自分たちは生きる人の宗教だと規定したとする説です。
私は東日本大震災の後に東北で真如苑を取材したのですが、そのとき彼らから、「親族を失った人たちに泣きながら死者を弔ってくれと言われたが、真如苑では葬式を行わないので何もできなかった」という話を聞きました。大量死時代にも同じことが起こる恐れがあります。
菅野:宗教は遺族の嘆きに寄り添う、いわゆるグリーフケアをやってきたわけですが、日本社会からグリーフケアのできる人がいなくなっているということです。
小川:神社本庁は政治的なことにばかり頭をつっこみ、安倍政権と一緒に憲法改正を行うなどと言っていますが、まっとうな関係者たちはみな現在の状況に頭を悩ましています。「神道とはどういう宗教なのか」という掘り下げが蔑ろにされているきらいさえあります。
もし大量死時代の中で救いを示せなければ、宗教団体はさらに信用を失います。それは宗教団体を瓦解・崩壊させる決定打になるかもしれません。それほど日本の宗教団体は危機的状況に追い込まれているのです。
(構成 中村友哉)
小川寛大●1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、宗教ジャーナリストとして独立。2014年、宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15年、同誌編集長に就任
菅野完●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『
日本会議の研究』(扶桑社新書)著者。現在、メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(
https://sugano.shop)刊行中