── 現在、日本が直面している課題は何だと考えていますか。
野口:(1)労働力の不足への対処、(2)社会保障支出の増大への対処、(3)中国の成長などの世界経済の構造変化への対処、(4)AI(人工知能)などの新しい技術への対応です。
特に、経済発展を続ける中国とどう付き合うかは、これから日本が直面する最大の課題だと思います。中国の基礎研究力の向上には、目を見張るものがあります。2018年に全米科学財団が発表した論文数世界ランキング(2016年)で、中国は世界1位となりました。アメリカは2位に、日本は6位に、後退しました。コンピュータサイエンスの分野でも中国は世界1位になりました。最近まで、スタンフォード大学とMITがトップを走っていましたが、中国の精華大学に抜かれました。東大は91位です。未だに東大には、コンピュータサイエンス学科がありません。絶望的な状況です。
東大には偉い先生が大勢いるので、新しい分野の研究が進まないのです。学生が大学に残ろうとすれば、自分の先生の研究分野をやらなければならないからです。これに対して、精華大学では、文化大革命によって偉い先生がいなくなってしまいました。そこで中国の若い研究者たちはアメリカに渡って勉強したのです。そして彼らは中国に戻り、新しい分野の研究を推進しました。
実はいま、GAFAのさらに先を行く「ユニコーン企業」の時代に進みつつあります。未公開で時価総額が10億ドルを超える企業です。空想上の一角獣のように「ありえない企業」という意味で「ユニコーン企業」と呼ばれています。これまで、ユニコーン企業の中心はアメリカでしたが、いま中国のユニコーン企業が続々と誕生しています。古い産業が温存されている日本では、ユニコーン企業は生まれません。
高速大容量の5G(第5世代)の基地局の通信機器は、中国のファーウェイ、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアによって独占されています。日本のシェアは、わずか2%です。NTTの注文があるので、辛うじて2%を維持できていますが、それがなくなれば現在のシェアも維持できません。しかし、日本人には全く危機感がありません。5Gによって世界がどう変わるのかといった内容の記事は出ますが、日本の立ち遅れを指摘する記事は皆無です。
歴史を振り返ると、人類誕生以来、中国は常に最先端を走っていました。ところが、この数百年、中国はおかしくなっていました。そして、いま中国は再び世界の最先端を走ろうとしています。つまり、歴史が正常化したということです。
しかし、目覚ましい発展を続ける中国とどう付き合うかは、非常に厄介な問題です。中国は未だに全体主義的な体制です。しかも、AIの技術を急速に取り入れて、全体主義を強化しています。そうした国家のあり方を認めていいのかという問題があります。一方で、経済的には、世界の先端を走ろうとする中国との関係を正常化する必要があります。非常に難しい問題です。
いずれにせよ、日本人は、一日も早く眠りから醒め、世界の変化に追いつく必要があります。ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』の中に登場する赤の女王は、「同じ場所に留まるには、一所懸命に走らなければならない。もし別の場所に行きたいのなら、その倍の速さで走らなければいけない」と言っています。現在の日本人に向けられた言葉だと考えるべきです。
(聞き手・構成 坪内隆彦)
提供元/月刊日本編集部
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