質問6.は朝日新聞社の記者さんですが、やはり語尾が発音不明瞭で、氏名が聞き取れませんでした。改善してください。質問そのものは、
英国でのホライズン計画(UK-ABWR輸出計画)の失敗と、原子力発電の経済的持続性妥当性を問うた、中西氏にとって極めて耳の痛い質問です。
“原子力をその投資回収可能なぁ、そのレギュレーショナルにするためには、会長自身、まあ環境整備というふうにおっしゃってますけど、どういうのを必要だと具体的に考えておられるのか”
これはたいへんに耳の痛い質問です。中国を除く世界での3G+炉の失敗の連続は、投資回収が不可能なほどに建設費、運転管理費が増大したことで、とくに2G炉や旧式の3G炉が3500億円/GWeという建設単価であったのに対して、現在3G+炉の建設単価が実績ベースで9000億円/GWe前後に高騰している現実があります。
発電原価の四割前後を占める資本費はこれによって跳ね上がっており、新規建設原子力発電所の経済的合理性を著しく損ねています。フィンランドの場合は、契約からの増加分と建設遅延による遺失利益をAREVAに負担させていますが、結果としてAREVAは経営破綻しました。英国の場合は極めて高額な電力買取保証をAREVA後にEDFと交わし、需要家の操業開始後の大幅負担増という形で環境を整備しています。合衆国ではAP1000二基の建設が価格高騰によりV.C.サマーではキャンセルになり企業連合体の中で訴訟合戦となっています。またメーカーのWH(ウエスチングハウス)は経営破綻(米連邦破産法第十一条)してしまいました。現在はヴォーグルでAP1000二基が建設中ですが、これも建設費高騰のために建設中止の是非を巡って企業連合の中で争いとなっています。
好成績の既存2G炉の運転年数延長によって合衆国では原子力発電所の操業が維持されていますが、日本では全BWRが成績不良ですので操業再開できるか否か、運転年数延長が可能か否かは現状では悲観的です。操業するにしても新規制基準への適合のためには建設費を上回る投資を要するために経済的に妥当かと言えば、まともに基準を遵守すれば極めて難しいと言うほかありません。
“日立製作所がホライズンをやっておられましたけど、まあイギリスというのは、日本より格段にバックエンドも含めて政府のコミットメントは強くて、投資回収としては格段に日本より進んでいる環境下においてですらですね、日立製作所としては企業体としてあの事業を凍結せざるを得ないという判断になったと思うんですけども、やはりそのオペレーターとしてちゃんとこう、原子力みたいな大きいエネルギーを発生させるものを主体的に制御していくというような主体がなければ、なかなかその事業継の続性って、難しく感じられて、その必要性があるっていうのと、維持できるかどうかっていうのは別次元の話だと思うんですが、そのへん、日立の会長として、あの事業の凍結を決められたことをふまえて、どういう風に考えておられるのかって“
これも極めて耳の痛い質問です。英国のホライズン計画では日立が、NuGen計画では東芝が電力会社を買い取り、オペレータ(電力会社)としてそれぞれ日立のUK-ABWR(3G)と東芝/WHのAP1000(3G+)を建設する計画を立てましたが、双方ともに事業費の高騰によってオペレータとして行き詰まり、ホライズンは事業凍結、NuGenは事業体の内部精算によって消滅しました。NuGenに東芝は過大投資しており、WHへの過大投資と合わせて東芝そのものを事実上の経営破綻させてしまいました。日立は比較的堅実でしたが、やはり日立にとって深手となっています。
このことは、EDF(フランス電力会社)/CGN(中国広核集団)連合のヒンクリーポイントCとサイズウェルBのように長期固定料買い取り契約によって需要家に大きな負担をさせない限り、原子力発電所の新規増設は経営上成り立たないと言うことを意味しています。
EDF/CGNのEPR(欧州加圧水型炉)は現在人類が持ちうる限り最高の極めて安全な商用原子炉ですが、極めて高額の建設費となり、経済的には成り立たず、結果として経営上の妥当性がないと言うことはもはや既知の事実と言って良いのです。先行事例ではフィンランドはAREVAの経営破綻、EDFの大きな持ち出しで成立し、英国では需要家のたいへんに大きな負担で成立してます。但し、中国では、CGNの手により極めて順調に操業開始できましたが、CGNも今後は自前でより安価な華龍1(3G)を 主力にするとしています*
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“[中国] 専門家、華龍1号の建設コストは欧米の第3世代炉の半分以下と発言 - 海外電力関連 トピックス情報 | 電気事業連合会” 2018年5月17日、
“中国、「AP1000」の採用を縮小し「華龍一号」に注力も 日本テピア株式会社”2017/05/16>
日立は英国のホライズン計画を凍結という名目で事実上中止し、東芝、三菱と並んで国際原子炉市場から脱落したのですが、そのような実力でどのように国内で原子炉建設を行って行けるのかという質問です。
●ヒンクリーポイントC, NNB Generation (EDF・CGN),EPR 2基
●サイズウェルC ,NNB Generation (EDF・CGN),EPR 2基
●ブラッドウェルB ,NNB Generation (EDF・CGN),華龍1 2基
×ウィルファ ,Horizon Nuclear Power(日立),ABWR 2基
×オールドベリー ,Horizon Nuclear Power(日立),ABWR 2基
×ムーアサイド ,NuGeneration(東芝,ENGIE),AP1000 3基
(再掲)英国原子力発電所建設計画の一覧
さて、これら「耳の痛い質問」に中西会長はどう答えたでしょうか?
国内では「まずは法律はやめよう」って言ってたのに!?
回答6.
“UKのホライズン計画というのはほぼ整えつつございました。”
これは、こう言わねば面子がつかないわけですが、ホライズン計画は、EDF/CGN連合が英国政府から獲得した
15円/kWhで35年という固定料買取契約を得られなかった時点でもう駄目だろうとみられており、
日立の撤退はかなり遅きに失した感があります。
日立は、1990年代前半に実用化して実績のあるABWRを英国向けに改良することによって安い建設費を実現できると言う売り込みをしていましたので、需要家に重い負担を強いる固定料買取契約をホライズンと行うことはあり得ないことです。これは同様にCGNが主体となって華龍1(3G)を建設する計画のブラッドウェルBにも当てはまり、こちらでも固定料買取契約はありませんが、CGNは「やる気マンマン」です。中国国内と合わせて大量建造による低コスト化を見込んでいるのでしょうし、そもそも1980年代の設計であるABWRに対して、華龍1は、フランス系PWRで2000年代設計の最新型です。
“UK政府は法律ギリギリのところのオファーまでしてくれた“
”一線は越えられない。それは法律“
”法律っていうのは、そのー、いま、メイ政権でこういう法案を出して変えられる状況にない“
これは当たり前のことを言っているだけです。法律は守る。法律の範囲で行う。当然です。しかしこの直前には
“まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”
と言っています(
前回参照)。これはおかしな事です。
英国事業では、ファイナンス上の課題は英国政府に従う。一方で、国内での事業については、原子力規制について
“まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”
と言います。このとんでもない内弁慶思考は厳しく糾弾されねばなりません。コンプライアンス上の重大問題でもあり、この発言は看過できません。
“どんどんどんどん費用がかさなって、まあ要するにファイナンス計画がうまく組み立てられなかったから凍結“
これは日本国内でも全く同じ事が起きており、それが再稼働すらまともにできず、再稼働後も操業停止リスクがつきまとう理由です。日本国内では
“まず法律からっていう姿勢はちょっとやめましょうよって”
と言い放てる理由が理解できません。
”我々はオペレーターであるとかないとかそういう議論も出発点ではありました。”
きわめて優遇されていた英国ですら、オペレーター(電力事業者=ホライズン)として日立のABWRでは新規増設が経営上成り立たないという結論を日立=ホライズンは出したわけです。当然ですが、メーカーとしての日立の顧客である電力事業者に、法令遵守ながら建設、運用できる製品を提供するのが筋です。福島核災害後の国際原子力市場でABWRは商品として通用しなかったのです。
“UKのケースというのは一つ固有のプロジェクトの話ですから、今日の議論とは全然独立だと思います。”
これは
嘘です。英国での日立の失敗は、少なくとも旧西側世界で求められる原子力規制基準では日立のABWRは通用しなかったという事です。
裏技として、オペレーター(電力事業者)をメーカー側が買収して契約するというのが英国で行われていることですが、これが日本で認められるのならば、例えば日本原電をロスアトムが買収しロシア原電と改名してVVER1200(PWR 3G+)を導入するなりCGNが買収して中国原電と改名し華龍1(PWR 3G)を導入することが許されねばなりません。
おそらく国内原子力メーカーは、全く歯が立たないでしょう。著者は、VVER1200なり華龍1が建設されるのなら引っ越してでも操業開始まで見届けたいです。想像するだけでドッキドキーのワックワクーとなります。
さて、いよいよ本シリーズの最終回となる次回では、質問7~9の質疑応答についてご紹介した上で解説いたします。中西氏の悪癖がここでまた露呈しています。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編Ⅲ原子力産業・圧力団体による宣伝・政策活動–6
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado photo by
Nuclear Regulatory Commission via flickr (CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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