短絡的な民意を重視する安易な路線に移ろい始めた「政治家の言葉」
●2012年
トップテン 「維新」/ 日本維新の会代表代行 橋下徹さん
”地域政党「大阪維新の会」が「日本維新の会」を結成、国政政党として国政選挙へ乗り出し、坂本龍馬の「船中八策」に倣って、「維新八策」を発表した。ちなみに「維新」という言葉を掲げた団体の例は珍しいものではなく、1992年発足の「平成維新の会」(代表大前研一)が記憶に新しい。”
大阪府知事から、政令指定市として同等以上の権限をもつ大阪市長に鞍替えした橋下徹率いる維新が国政にも進出。日本の地域制度は地域を変えるために、立法を含め国政に影響力をもつ必要があることはかねてより指摘されていた。主張の内容はさておくとして、実行に移した例は乏しく、橋下の政治的嗅覚と実行力は卓越したものだったといわざるをえない。
敵を政治家らしからぬ庶民的な平易な言葉で「論破」し、それを衆目にさらしていくメディア上での振る舞いも従来の政治家らしからぬものであった。公職選挙法の改正以前から、Twitterを積極的に使い従来メディアの批判や反論にも活用した。橋下の振る舞いは維新系の政治家を中心に政治家の間で踏襲されていくことにもなった。
政治家の言葉を巡る規範は明らかに短絡的な民意を重視する安易な路線に移ろいつつある。
トップテン 「第3極」/ 第3極の皆さま
”二大政党制の下で、二大政党の次の勢力になりうる政党のことを指す「第3極」。たとえば社民党は2004年ごろから「第3極としての社民党」を声高に叫んでいたが、ここへきて、政権党が低迷し、自民党にも昔ほどのパワーが感じられず、新党が乱立。二大政党制という大前提の崩壊さえみえてきた。”
現在では社民党の支持率は低迷し、NHK放送文化研究所の「政治意識月例調査」によれば、2010年代に入って社民党の支持率は1%を切るようになって2015年以後常態化する。支持率1%とは自民、民主それぞれから分裂した少数政党の支持率と同等か前述の維新を下回るもので、現在ではすでに「第3極」としてすら名前があがらなくあっている。民主党政権を経て、むしろ際立っているのは自民党の懐の深さと統治の手練手管の老獪さだった。
トップテン「近いうちに・・・」/内閣総理大臣 野田佳彦さん
”社会保障と税の一体改革関連法案の成立後の8月、野田首相は「近いうちに国民に信を問う」と明言。つまり衆院解散を確約したため、それはいつのことやらと3ヵ月にわたってヤキモキさせ、「近いうちに解散」という言葉ばかりが流通した。”
総理の解散権は伝家の宝刀と言われている。抜くか、抜かざるか、抜くとしたらいつ抜くのかが与野党に対する権力の重要な源泉である。ところが、野田内閣が重要視した社会保障の充実・安定化と、安定財源確保、財政健全化の同時達成を目指した社会保障と税の一体改革関連八法成立を目前にした3党党首会談で、解散に言及してしまう。
一度吹いた解散風は止められないともいうが、永田町をヤキモキさせながら、最後は国会論戦の中での言及が民主党政権の終焉に繋がった。それは政治日程の管理に長け、低投票率ながら度々選挙戦に勝利し、政権の安定的運営に繋げた第2次以後の安倍内閣と対象的な姿であった。
<文/西田亮介 photo by C
orpse Reviver via wikimedia commons(CC BY-SA 3.0)>
にしだ りょうすけ●1983年、京都生まれ。慶応義塾大学卒。博士(政策・メディア)。専門は社会学、情報社会論と公共政策。立命館大学特別招聘准教授等を経て、2015年9月東京工業大学着任。18年4月より同リーダーシップ教育院准教授。著書に『
メディアと自民党』(角川新書)、『
なぜ政治はわかりにくいのか』(春秋社)など