「目先の利く政治家や企業家なら、この場所うまく利用したいと思うのでは」
西成区は、日雇い労働者や野宿者が集まる町として知られており、“汚い”、“治安が悪い”というイメージを抱いている人が多い。地域の再開発を進めて、ホテルや飲食店を建てたり、官庁街として利用したりしたいと思うのも無理はない。
しかもあいりん地区は、交通の便がよいのだ。30年以上に渡って日雇い労働者や野宿者の支援活動に関わる生田武志さんは、こう指摘する。
「釜ヶ崎は交通の便が非常に良い場所です。あいりん総合センターの目の前にある新今宮駅にはJR環状線と南海電鉄が乗り入れています。南海電鉄を利用すれば、新今宮駅から関西国際空港まで乗り換えをせずに行くことができます。また動物園前駅は、地下鉄御堂筋線と堺筋線が乗り入れ、新大阪駅と直結しています。
観光名所である新世界・通天閣や『あべのハルカス』にも歩いて10分で着きます。どこに行くにも便利な場所ですから、最近は観光客の宿泊も増えてきています。再開発が進めば、より多くの観光客が訪れるでしょう。地域住民の中にも再開発を歓迎する人は少なくありません。
目先の利く政治家や企業家なら、この場所に目を付け、うまく利用したいと思うのではないでしょうか」
生田さんが懸念しているのは、再開発が進むことで、貧困層がこの町から排除されることだ。
「再開発が進んで、安いアパートが高いマンションに置き換えられ、価格の安い店が高い店に取って代わられれば、貧困層が生活できない街になってしまいます。
この町には、シェルターや炊き出しがあり、日雇い労働者や野宿の人たちも生活することができます。借用書で受診できる病院もあり、貧困対策の先進地なんです。最近ではDVの被害にあった女性や親子もこの町に逃れてきています。
釜ヶ崎が変わってしまったら、これらの人々はどこへ行けばよいのでしょうか。すでに隣接する浪速区や天王寺区、阿倍野区では野宿しているとガードマンや警官から追い立てられるようになっています。野宿できるのはもはやあいりん総合センターくらいです。この町をどこにでもあるようなお洒落な町にしてどうするのでしょう」
町が“浄化”され、貧困層が排除されるということは、ニューヨーク市のハーレムやロサンゼルス市のスキッド・ロウで実際に起きてきた。2013年に松井大阪府知事は、「大阪のど真ん中にあるあいりん地域がニューヨークのハーレムのように変われば、この地域の可能性、ポテンシャルが大阪の成長に好影響を与える」と語ったという。(※2)
維新府政が目指す釜ヶ崎の「浄化」。困窮した人の最後の砦として存在してきた町を再開発してしまうことが本当に望ましいのか。今後の行方が注目される。
※1生田武志『釜ヶ崎から 貧困と野宿の日本』(筑摩書房、2016年)
※2同上
<取材・文/中垣内麻衣子>