丸山議員への辞職勧告決議は筋違い。衆院は懲罰委員会に付託せよ

懲罰:衆院としての責任の取り方

 国会での言動で問題を起こした議員に対しては、懲罰というルールが国会法で用意されています。今回の丸山議員のケースは、衆院の代表としての活動(委員派遣)ですので、国会議事堂という建物の外ではありますが、国会の中での問題となります。  懲罰は、国会議員の身分に関することなので、憲法や国会法、衆参規則で規定されています。憲法58条は「(両議院は)院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする」と定めています。  懲罰の対象となるのは、院内の秩序を乱す行為です。具体的には「議院において、無礼の言を用い、又は他人の私生活に関する言論をする等」(浅野一郎編著『国会事典』有斐閣)とされています。  丸山議員のケースは、懲罰事犯に該当する可能性が高いでしょう。なぜならば、訪問団長に対し「無礼の言を用い」たことに加え、憲法9条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」に真っ向から反する言動を行い、憲法99条の憲法尊重義務に反するからです。しかも、丸山議員は一議員としてではなく、衆院の代表たる資格において行いました。衆院としてこれを否定もしくは是正しなければ、衆院がそれを是認したことを意味します。典型的な懲罰事犯といっても、過言ではありません。  懲罰の審査は、懲罰委員会で行います。注意しなければならないのは、議員が懲罰動議を提出する場合、期限が設けられていることです。40人以上(参院は20人以上)の議員の賛成で懲罰動議を提出できるのですが、それは事犯のあった3日以内でなければならないのです(国会法121条3項)。丸山議員のケースでは、5月14日に期限を過ぎてしまいました。  懲罰委員会は、4種類の懲罰を決定できます。①議場における戒告、②議場における陳謝、③最大30日間の登院(国会出席)停止、④除名です。なお、除名に際しては「議院の秩序をみだし又は議院の品位を傷つけ、その情状が特に重い者」(衆院規則245条)と、一定のハードルを設けています。丸山議員のケースでは、衆院の代表としての憲法尊重義務違反などであるため、これに該当する可能性が高いでしょう。  除名については、懲罰委員会での決定の後、本会議にかけられて出席議員の3分の2以上の賛成を必要とします。もし、賛成が得られなければ、他の懲罰を下すことができます。

丸山議員のケースをどうすべきか

 このケースは、衆院の代表としての言動による事犯ですので、衆院議長によって懲罰委員会に付されるのが筋です。議員による動議の提出には、期限がありますが、議長の場合はありません。各党で合意した上で、議長の権限で懲罰に付すのが適当です。  懲罰委員会は、公開で開催し、丸山議員の弁明を聴取し、質疑すべきです。また、同行した関係者を参考人として招き、客観的に状況を解明することも必要でしょう。なぜならば、丸山議員の言動が衆院の意思と無関係であることを、国内外に説明する必要があるからです。  そして、懲罰委員会の委員同士で議論し、4つの懲罰からいずれかを決定します(形式的には議長が委員会の審査を受けて宣告します)。その審議も完全公開し、有権者の投票行動に活かされることが大切です。個人的には、丸山議員の言動は、除名に相当すると考えます。ただ、どの懲罰になるにしても、審査プロセスを透明化することが、衆院の信頼回復において必要です。  さて、丸山議員はアルコール依存症とも疑われているようです。そうであるならば、丸山議員には治療が必要となります。また、所属政党だった日本維新の会や、かつての職場であった経済産業省の方たちが、丸山議員の病気をある程度知りつつも、見過ごしてきたことになります。  その場合、丸山議員が治療に専念することと、日本維新の会や経済産業省でのアルコール依存症の理解促進研修等が必要と考えられます。これは、衆院としての責任(懲罰)と別の課題として、真剣に考えなければならないことでしょう。 <文/田中信一郎> たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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