もっとも、ベゾス氏にとってブルー・ムーンの開発や、そもそもブルー・オリジンという会社を立ち上げた本当の目的はほかにある。2024年に月に宇宙飛行士を送り込もうというのも、地球と月間にAmazonのような物資輸送サービスを展開しようというのも、そのための手段、通過点に過ぎない。
ベゾス氏はかねてより、ブルー・オリジンを立ち上げた動機を「
人類が宇宙に進出し、活動の場とするため」だと語っている。つまり、人類の経済圏を宇宙にまで広げようというもので、月の経済開発はまさにそのひとつである。
ベゾス氏はまた、都市のような巨大な宇宙ステーション、いわゆる
「スペース・コロニー」の建設についても言及。もちろん月着陸とは違い、スペース・コロニーは一朝一夕に造れるものではないが、ベゾス氏は「
自分の子ども、あるいは孫の世代で実現できるよう、その基礎を造りたい」とし、そのためにニュー・グレンやブルー・ムーンといったロケットや宇宙船などの開発を行っているのだと語った。
なぜ、人類を宇宙に進出させようとしているのか? その目的をベゾス氏は
「地球を守るためだ」と語る。
ベゾス氏曰く、地球は人類にとって十分に大きくはなく、いずれ資源やエネルギーを使い果たすと予想。そこで、重工業と鉱業を宇宙に移し、地球には住宅と軽工業のみ残すという形に切り分けることで、地球を守ろうというのである。そしてそのために、人類の経済圏を宇宙に広げる必要があり、その実現のためにロケットや宇宙船が必要だ、と主張する。
この考え方は、同じ宇宙ベンチャーの「スペースX」を率いるイーロン・マスク氏とはやや対照的である。マスク氏も人類が宇宙へ飛び出していくべきと主張し、そのための宇宙船の開発に勤しんでいるが、その根底にあるのは「地球はいつか、隕石の衝突や伝染病などで生命が死に絶えるかもしれない。それを乗り越えるため、地球以外の天体に住めるようにしておかなければならない」という、いわば恐怖心である。
動機は違えど、同じ人類の宇宙進出という目標に向かって、私財さえも投じてひた走る2人の富豪。そのその行き着く先の未来には、なにが待ち受けているのだろうか。
「スペース・コロニー」の建設について語るベゾス氏 (C) Blue Origin
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
КОСМОГРАД
Twitter:
@Kosmograd_Info
【参考】
・
Blue Origin | Going to space to benefit Earth (Full event replay)
・
Blue Origin | Blue Moon