期待と失望が交錯した民主党政権時代のメディアと政治を振り返る<「言葉」から見る平成政治史・第6回>

政治もインターネット広報が本格化

 政治の世界でもインターネットを使ったキャンペーンが広がりを見せる。インターネットは選挙制度改革によって無党派層の支持獲得の重要性増大などとも関連しながら、「政治の言葉」にも影響を与えたと考えられる。  1994年8月に当時の総理府が「首相官邸ホームページ」を開設し、各政党もホームページを用意するようになっていった。小泉内閣のもとで官邸広報手法の一環として、メールマガジンが準備され、当時の安倍官房副長官が編集長を務めている。  そうはいっても、この時期の政治のネット利用はあくまで傍流であった。当時の公職選挙法はインターネットを使った選挙運動(以下、「ネット選挙」)を禁止していたからである。日本では選挙運動は「特定の選挙について、特定の候補者の当選をはかること(そのために相手候補者を当選させないことも含む)を目的に選挙人に働きかけること」とされている。それ以外の政治家の活動は政治活動と呼ばれる。  日本ではポスター、ビラの大きさや枚数、証紙の貼り付けなどが要請され、定められた手法以外で選挙運動を行うことはできなかった。インターネットの普及と関心の高まりのなかで、政治での利用も模索されたが、旧自治省は当時の公選法に照らして選挙運動への利用については法改正が必要との見解を示していた。  当時の民主党は挑戦者らしく2000年代を通して、ネット選挙の解禁を主張し、自民党は概ね否定的な立場だった。一般に現職政治家や与党は選挙制度改革や選挙区改正を好まない。たとえばこの間の参議院の選挙区の合併、いわゆる合区を巡る動きを見ると、強力な反発や巻き返しを招きがちである。合区問題はその後、最近の選挙制度改革の流れに反した議席増、比例特定枠の導入等を含んだ公選法改正という結末を迎えたことは記憶に新しい。  このような状況を踏まえて、経済団体やIT業界などは繰り返しネット選挙の導入を主張し、当時の民主党も同調したが、結局ネット選挙の解禁は2013年の第2次安倍政権を待たねばならなかった。

「新しい政治」を模索した民主党政権の失速

 もちろんネット選挙以外にも、民主党は「古い政治」に対して、「新しい政治」をぶつけようとし、またそのための政治の言葉を用意した。前章でも取り上げた「消えた年金問題」や、マニフェスト政治などを手がかりにしながら、日本政治に新しい息吹を持ち込もうとしたのである。それらはそれなりに熟慮され、プロの手によってデザインされたもので、小泉総理の言葉ほどのインパクトこそ持ち得なかったものの、それなりに広がりを見せ、社会に強い期待感を与えた。  2009年8月30日投開票の第45回衆議院議員総選挙の投票率は69.28%と小選挙区制が導入されてからもっとも高い数字を記録し、民主党は308議席を獲得した。また同年9月の鳩山内閣発足時の内閣支持率は72%に達し、民主党支持率も42%であった。  だが期待感は長くは続かなかった。2009年がピークで、完成すると同時に綻びを見せることになった。政権が動き出すやいなや統治の知恵と手法、経験の不足が露呈した。  子ども手当などマニフェストに書かれていた目玉政策を実現するための財源は十分に確保できなかった。新語・流行語大賞にも登場した「埋蔵金」を発掘することはできなかったのである。  政治主導を掲げて事務次官会議の廃止など官僚機構の改革に着手するも、混乱を招き、事業仕分けなど衆目を意識し過ぎたことで政治ショーと化した施策も少なくなかった。  徐々に「新しい政治」と民主党に対する期待感は失われていった。挙げ句の果てに、鳩山内閣は普天間基地移転に関する一貫しない発言の責任をとるかたちで辞職した。新しい政権は一年に満たない在任期間の短命政権であった。  民主党の政党支持率も低調で、2011年に入ると自民党の逆転を許すようになった。2010年の参院選直前に突如、政界で鬼門とされる消費税増税に思いつきで言及したことも影響し敗北を喫したことで、安定した政権運営がいっそう難しくなった。 2010年民主党と自民党の政党支持率 2011年民主党と自民党の政党支持率 2012年民主党と自民党の政党支持率※出典「NHK放送文化研究所・政治意識月例調査・2009年」より
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