2.漢字
文字学習の中でも、漢字圏以外の学生にとってハードルが高いと思われるのが、漢字であるのだが、意外なことに、欧米系の学生を含め、かなりの割合の学生は、漢字のカタチを覚えること自体においては、ひらがな・カタカタの時よりもそれほど大きなストレスを感じていない。
漢字1つひとつに、「意味」や「元になったカタチ」があるため、比較的覚えやすいのかもしれない。
漢字学習者のもう1つの大きな特徴に、「漢字大嫌い派」と「大好き派」に分かれるというのがある。
後者の学生は、漢字へののめり込み方がハンパなく、日本語教師泣かせとしかいいようのない「薔薇」「葡萄」「憂鬱」などを「書いて見せてくれ」などと願い出てくる。
ちなみにそのほとんどが、欧米系の学生たちだ。
また、漢字大好き派は、漫画好きであることも多く、中には、彼らの先生じゃなければ「そんなん知らん」で済ませたくなるような「先生、
『本気』はどうして『マジ』と読みますか」、「
『強敵』はどうして『とも』と読みますか」、と質問してくる学生もいるため、こうした疑問に対応すべく、日本語教師は、実に様々なタイプの引出しを頭に用意しておかねばならないのだ。
一方、前者の「漢字大嫌い派」がそう思う理由には、
「送り仮名」と「音読み・訓読み」、そして「例外読み」の存在がある。
彼らには、「古い」の送り仮名は「い」なのに、「新しい」は「しい」になる理由や、雨(あめ)に傘(かさ)が付くと「あまがさ」になる意味を深堀しようとする癖があり、これに教師が「それはルールですから」「例外ですから」で済ませると、彼らの漢字嫌いは、100%拍車がかかるのだ。
3.数字
初級レベルの学生を悩ます日本語には、もう1つ「数字」がある。
日本には、数字のカウント方法が2つある。いわゆる、「ひとつふたつみっつ」と「いちにさん」だ。
これをただ覚えるのは、彼らにとっても簡単なのだが、実際に「単位」とくっ付けて使い方を説明すると、教室が一時パニックになるのだ(その前に彼らはすでに「単位の多さ」で一度パニックになっている)。
例えば、本数を数える時の「いっぽん、にほん、さんぼん」、人を数える時の「ひとり、ふたり、さんにん」。
日本語教育の現場で最も使われている某教科書では、最も素直な「いちまい、にまい、さんまい」を最初に紹介して彼らを安心させるのだが、その後、このような例が次々に彼らを襲うのだ。
中でも悪評判なのが、「日付」のカウントである。
「ついたち」「ふつか」「みっか」と数え、ようやくたどり着いた「とおか」で、「あとは“にち”を付ければいい」とすると、間もなく「じゅうよっか」で眉間にしわが寄り、「じゅうしちにち」で首が傾き、「じゅうくにち」で頭を抱えると、「はつか」で悶絶に至るのだ。
世界で最も難しい言語の1つと言われる日本語。彼らの習得努力を考えると、自分がこうして流暢に日本語を話せていることに不思議な感覚と、感謝の念を抱いてしまうのだ。
◆シリーズ連載:「外国人にとっての日本語」
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。