難民申請が認められず無期限収容、精神崩壊まで追い詰められたクルド人男性

「殺すなら一気に殺せ!」体中を刃物で切り刻む

 2018年9月、Hさんの自傷行為が始まった。収容に耐えられなくなったHさんを含む3人のクルド人が「殺すなら一気に殺せ!」と入管職員に対し叫び、暴れ、体中を刃物で切り刻んだのだ。  見ていた被収容者たちの話によると、床は血だらけだったとのことだった。その後すぐに手当てを受けたが、それぞれ懲罰房に入れられてしまった。  筆者は3人に面会した。彼らは、どんな刃物を使ったかなどについては覚えていなかった(同室の人たちは「CDを割ったのでは?」と推測している)。  それ以来Hさんはすっかり元気をなくして、ふさぎ気味になってしまった。いつまでたっても解放されることはなく、ついに1年が過ぎた。赤ちゃんだった娘は、触れ合うこともないまま少しずつ大きくなっていた。

娘の服を抱きしめて寝ているHさん

筆者のインタビューに答えるHさんの妻

筆者のインタビューに答えるHさんの妻

 2019年4月、再びHさんに異変が起きた。もう何度目になるかわからない仮放免申請の却下で、Hさんはパニックを起こして暴れ出した。それから、暴れては懲罰房に入るということを繰り返すようになった。  Hさんと同じブロックの周りの被収容者に聞くと、みなとても心配して気遣っている様子だった。 「Hさんが自傷行為を繰り返している。5月末は娘の2歳の誕生日らしい。『それまでに出られなければ死ぬ』と言っていました」 「娘の服を抱きしめて寝ています。もう会話もほとんどできません」  Hさんの義姉は、面会した時のことをこう語る。 「Hは何か服のようなものを抱えていました。『それは何?』と聞くと、『私の娘です』と答えました。それを聞いたとき涙がこぼれそうになりました……。Hは変わってしまった、目も合わせず、ずっと下をむいている」
次のページ
難民だから帰れないで日本にいる
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会