キャッシュレス推進の影で着々と近づく[信用格差社会]

顧客を囲う経済圏 すでに信用スコアが登場

 もっとも、事態は対岸の火事ではない。いまや日本でもキャッシュレス決済サービスのプラットフォームは群雄割拠の状態だ。

「信用スコア」の覇権を争う企業の勢力図 ’18年11月に楽天、KDDIが提携を発表。すでにKDDIと提携していたLINEは’19年3月にメルカリとタッグを組んだ。この巨大グループがどういったスコアサービスを打ち出すかが注目される

「各社はポイント還元などで消費者をひきつけ、自社のプラットフォームによる決済比率を高めようとしています。そこで集めたビッグデータを次の商品購入につなげようというモノのマーケティングが当面の動機ですが、その次の段階として金融的なマーケティングに移行するつもりでしょう」  この動きはすでに実体化しており、日本でも信用スコアが誕生している。そのトップランナーこそ、ソフトバンクとみずほ銀行が設立したJ・Score社の「AIスコア」だ。これは、前者が持つAI技術、後者の顧客データ分析やローン審査のノウハウなどを融合させた信用スコアである。

日本初の信用スコア「AIスコア」のスマホ画面

 この動きに対抗すべく、今年3月、若いユーザーを抱えるLINEとメルカリも提携を発表した。 「最近の中高生はスマホでアンケートに答えて小遣い稼ぎしています。でもそれは自分の情報を切り売りしていて、その自覚もなくスコアに取り込まれているのです」  各プラットフォームの提携によって、各消費者の個人情報は、次のビジネスチャンスを窺う事業者たちの掌の中にあるのだ。

スコアが社会的弱者を救済 評価システムは透明化へ

 ただ、IT評論家の尾原和啓氏によれば、信用スコアは社会的弱者にも希望をもたらすという。 「海外ではUber(ウーバー)という成功事例があります。Uberとは、専用アプリを通じて行う配車サービス。Uberは、ユーザーのレビューを重視しているため、アメリカの移民などのような、一般的に社会的信用のないとされるドライバーも、マジメに頑張っていけば、プラスの評価を積み上げることができます。彼らはコツコツ頑張ったぶんだけ正当な報酬を受け取れるのです」  中国版Uberともいえる配車アプリ「滴滴出行(ディディチューシン)」でも同様だ。 「滴滴出行でもドライバーの評価システムを導入したことで、運転が荒いドライバーや観光客へのぼったくりが激減しました。こうした仕組みは他の業種でも転用可能で、たとえば日本でも作業が単純で可視化しやすい工場などの仕事の評価システムとして導入することもできるはずです」  こうしたシステムで信用スコアが上がっていけば、非正規雇用者が住宅ローンを組むこともできる社会になる可能性もある。 「今まではチート(ズル)して稼ぐことがある種当たり前の時代でしたが、これからはコツコツ地道に働き、信用スコアを上げていくことが合理的な社会になっていくでしょう。Uberや滴滴出行のように、労働者を適正に評価する仕組みが、日本の信用スコアにも導入されることを願うばかりです」  新時代の評価システムは我々の生活に何をもたらすのだろうか。 【岩田昭男氏】 消費生活ジャーナリスト、カード評論家、NPO法人「ICカードとカード教育を考える会」理事長。著書に『キャッシュレス覇権戦争』(NHK出版)など 【尾原和啓氏】 IT評論家・執筆家・批評家。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?』(共にNHK出版)など 取材・文/岡田光雄・沼澤典史・野中ツトム(清談社) 写真/時事通信社 PIXTA ― [信用格差社会]がやってくる! ―
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