液体ミルクのパッケージ表記で物議。「母乳信仰」は絶対神聖視されるべきなのか?

フィンランドからの液体ミルク、西日本豪雨や北海道地震では使われず

 ところが同年の西日本豪雨や北海道地震発生時に届けられた液体ミルクは、ごく一部しか使われなかったことが報道されている。これは輸入製品であるがゆえにパッケージに日本語表記がなく使用方法が分からなかったという理由が大きそうだ。また、「使用例がない」といった声も挙がっていたという。つまりは認知度の低さが、こうした事態を招いたわけだ。  地震などによりライフラインが断絶した場合でも、水、燃料などを使わずに授乳が可能になる液体ミルクは、災害時の備えとして重要だという認識は、少なくとも8年前からあった。しかし、老若男女が理解できるパッケージでなければ、緊急時に活用されないケースも出てしまう。国内メーカーの液体ミルクは、災害対策としても、求められるようになっていたのだ。

人工乳の早期導入が食物アレルギーの発症を抑える可能性

 そこでようやく、今回のグリコ、明治の液体ミルクの登場となったわけだが、冒頭で記したような「表記」を義務付けられ、結果として“母乳か人口栄養か”といった意見の対立が生まれてしまう。「お湯で溶く必要がないから液体ミルクは手抜き」という言いがかりにも近い声はさておき、少なくとも、完全母乳を称賛する声は一向になくならない。母乳と人工栄養の混合栄養でさえ、批判的に見る層がいるのは確かだ。  ただしここで一つ、食物アレルギーの観点から、「母乳だけで育てることがベストとは言えない可能性がある」ことをお伝えしたい。 「日本小児アレルギー学会誌 32巻(2018)1号」に、筑波メディカルセンター病院の林大輔小児科専門科長による「乳の早期導入と牛乳アレルギー予防」が掲載された。それによると、これまで「完全母乳栄養がアレルギーに防護的であると考えられていた」が、そうとも言い切れないような研究結果も出てきているという。  人工乳開始時期と牛乳アレルギー発症時期を検討した研究で、生後14日以内に人工乳を開始したグループと、105~194日に開始したグループや194日後に開始したグループを比較すると、「生後14日以前に人工乳を開始した群で牛乳アレルギーの発症頻度が低下していた」という。つまり早くに人工乳を接種したほうが、牛乳アレルギーを発症しにくくなっているというのだ。  さらに、「牛乳アレルギー児の哺乳状況の後方視的調査では牛乳アレルギー児で新生児期からの1日1回以上の継続的な人工乳摂取の頻度が低く、卵アレルギー児の牛乳アレルギー併発と人工栄養の関係の調査でも牛乳アレルギー併発群では生後3カ月以内の継続的人工乳摂取の頻度が低かった」としている。  つまり連日人工乳を続けたほうが、完全母乳や週1回未満の人工乳と比べアレルギー発症率が低いという結果も出てきているというのだ。  ただ林氏は「母乳栄養には感染症やSIDSの予防効果などもあり、継続的な人工乳の摂取がこれらにどのような影響を与えるかはわかっていない」ため、今後も研究が続けられるものだとしている。  とはいえ「母乳が絶対」という考えは、改めていく必要があるのではないか。本来は、育児をしている当事者がより良い手段を選べたほうがいいのは間違いない。その意味で、液体ミルクは歓迎され、コスト面からも気軽に導入できるようになっていくことが望ましいと個人的にも思う次第だ。 <取材・文/山田真弓> フリーランスの編集ライター。神奈川県出身。大学卒業後、音楽出版社、ロック専門誌「ストレンジ・デイズ」、阪急コミュニケーションズなどいくつかの出版社を経て現職。現在は子育て向け層媒体でも編集、執筆。食物アレルギー児の母。
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