観光産業に力を入れたことで、売春撲滅の動きが活性化しているというキューバ。筆者に声をかけてきた女は、今は街に立っているだけで警察に逮捕されるとのことで、移動は基本タクシーだという
キューバという国は不思議な魅力で、一部の熱狂的な旅行者達を惹きつけてきた。偉大なる革命家チェ・ゲバラと盟友のフィデル・カストロが共に骨組みを作り上げた社会主義国であり、アメリカからの経済制裁により携帯電話やインターネットの普及したのもここ数年でのことだ。
そういった文化的な側面に加え、歴史的な建造物や街並みを有し、牧歌的な雰囲気を未だに色濃く残している。
また、教育や食費や医療費などは全て無償で受けることができ、特に教育水準は極めて高い。それでいて人懐っこい人々との触れ合いも旅行の醍醐味の一つであり、旅行者にとってはオンリーワンの国と表現しても大袈裟ではないだろう。
そんなキューバでは、08年頃から段階的に経済自由化の動きが進んでいる。先述したような携帯電話の保持や、ホテルの解禁、自営業者に部分的に認められる副業の許可範囲が広まった。それに伴いこれまでほぼ均一で30ドル程度だった国民の月収に差異が生まれ、経済的に見てもターニングポイントを迎えているといえるだろう。
今年2月に行われた憲法改正を巡る国民選挙の結果、私有財産の許可範囲を拡大、外貨獲得を標榜した内容が可決された。長年キューバの先導者だったカストロ兄弟が一線を退くことで、経済自由化の動きはよい一層加速していく可能性が高い。
だが、筆者が注目したのは経済自由化の動きが意外な分野に影響を及ぼしていることだ。
歴史的な背景、国際的な事情で輸出国が限定されるキューバにとって、手っ取り早い外貨獲得の方法は観光業だ。国内通貨もキューバ国民用のCUPと旅行者用のCUCに分けられている。キューバを訪れる観光客の数は、年間470万人を超える。この数字は11年連続で増加しており、キューバはホテル建設やリゾート開発など観光業への投資を惜しんでいない。
一方で、90年代から2018年頃までは、キューバに夜遊び目的で訪れる旅行者も珍しくなかった。90年代には“売春天国”との異名もあったほどで、売春宿が多く点在していたという。
ほんの数年前までは街中では派手な衣装に身を包んだ売春婦達が溢れ、なんと10ドルや20ドルという格安価格で“連れ帰り”が出来たとのことだ。旅行者が街を歩いているだけで、女性たちから声をかけられまくる国だったのだという。
キューバの現地民が話す。
「3年頃くらいまでは、1ブロックごとに“立ちんぼ”がいるくらい観光客を相手にビジネスをする女性が多かった。実は俺の親も隠れてカサ(キューバ人にとっての家)を売春宿として貸していたみたいだから(笑)。1日、2日客を取ればすぐに平均月収以上を稼げるのだから、彼女たちにとって割の良いビジネスだよ。俺たち男性も旅行者に仲介したり、女のコを探したりして少なくない手数料を貰っていたよ」