さて、今回の両店のメンズ館リニューアルは、伊勢丹が「伊勢丹らしさ」を前面に押し出して「高感度なラグジュアリー」を極めた百貨店の王道ともいえる内容だったのに対し、阪急は高層階を中心に百貨店の常識を覆す「個性が強い」「マニアック」な店舗を新規導入しており、その姿勢は正反対のものであるといえる。
とくに阪急については開業時の路線から大きく方針転換したように思えるが、これには隣接するルミネの存在が大きいであろう。
阪急メンズ東京と同じ建物内に同居する「ルミネ有楽町」は「20代後半から30代の大人の男女」をターゲット(ルミネ発表による)に「ファッションビルの王道」とも言うべき売場づくりを行うことで絶大な人気を得ており、2018年3月期の売り上げは前期比2.7パーセント増の約215億円にも達する。「駅ビル以外への出店」としてその成否が注目されたルミネ有楽町であるが、売り上げは増加を続け、今や同店はルミネにおける旗艦店の1つへと成長を遂げた。ちなみに、旧・有楽町西武の2010年2月期の売り上げは約138億円であった。
阪急はメンズ館に転換して以降は比較的堅調な売り上げを記録していたものの、これ以上の「成長」を望むためには、ルミネと差別化しつつも、大きな集客力がある同店との相乗効果を上げることが必要であった。そこで若者を取り込むため新たなテーマに据えたのが「冒険」であろう。
ただ、忘れてはならないのが、ここは「有楽町」であるということだ。渋谷や原宿ならまだしも「有楽町」「銀座」という立地に「冒険」というテーマで挑むこと自体、まさに「冒険」であるとも思えるのだが……。
有楽町マリオン内に出店する「ルミネ」(右)と「阪急」
さて「正反対」ともいえるリニューアルとなった「伊勢丹メンズ館」と「阪急メンズ東京」であるが、その一方で詳しく見ていくと両店のリニューアルにはいくつかの大きな「共通点」も見えてきた。果たしてそれは…また次回の記事で述べたい。
<取材・文・撮影/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
@toshouken」