いつもの流れであれば旦那あるいは元旦那がいかにクズであるか、そしていかに自身が正当性を有しているかという弁論大会が開催されるのだが、そんな弁論大会も今回は早々に切り上げられ、近隣住民との軋轢が語られ始めたのだ。
どうやら債務者家族が引っ越してくる以前に自宅前で小さな女の子が交通事故で亡くなってしまったらしい。
この事故を後から知り、心を痛めた近隣のおばあさんが絶やすこと無く花を手向けに来るようになったというのだ。
確認のために玄関を一歩出ると、債務者家族の主張を裏付けるように歩道を挟んだガードレールには真新しい仏花が飾られている。
自宅玄関前に明らかにそこで誰かが亡くなったのであろう仏花が飾られているというのは、不動産価値を念頭に置く場合、確かに心象宜しくない。それが今回の競売のようになるべく高値で入札してもらおうというコンセプトのもとであればなおのことだ。
そのためこの献花を止めさせられないものかと警察や法律家にも相談したそうなのだが、芳しい回答は得られず、直接おばあさんと対峙した際にも「こんな悲惨な事故、絶対に風化させちゃいけないんだ」「私がやらなくなったら誰もやらなくなる。それは可愛そうじゃないか」「私の命ある限り続ける」と全く聞く耳を持たなかったという。
この事案は不動産執行人の間でもどう解釈すべきなのか議論となったが、敷地外の事案であるため、結局“競売3点セット”と呼ばれる、物件明細書、現況調査報告書、評価書いずれの書類にも記載されることはなかった――。
「風化させてはいけない」
今回の事例では花を手向けるおばあさんは遺族ではなく、遺族とも無関係。困っている債務者家族も亡くなった少女とは無関係。
このおばあさんを“ちょっと様子のおかしい人”と端的に片付けてしまうことは適切なのだろうか。
無関係にもかかわらず事件の一報に心を痛め行動に反映してしまう。
これはテレビやインターネットで報じられるニュースを見聞きし、ついつい一元的に声を荒げてしまう我々の姿とどこか重なる部分があるのではないだろうか。
大いなる“正論”「風化させてはいけない」。
この優しさや正義感に由来するのであろう圧倒的な言葉の正当性に押し黙ることしかできない人々。
彼らが抱く“忘れたい”“思い出したくもない”“忘れてもらいたい”との思いは、いつまでも“小さな事件”のまま、「忘却権」適用外のままという扱いで良いのだろうか――。
<文/ニポポ(from トンガリキッズ)>
2005年、トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
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