悲痛な敗戦の弁を述べる柳本と小西。テレビでは圧勝した維新の戦いぶりをNHKが伝えていた
一方の自民・公明を中心とする反維新陣営は、候補者選定のスタートから出遅れ、選挙戦が始まっても、不協和音ばかりが聞こえてきた。
首長選の告示後に発行できる確認団体ビラを出しそびれた。SNSやブログも更新されない。府議・市議が自分の選挙で余裕がなく、個人演説会に知事・市長候補を呼べない。選対本部や応援に来るはずの人間が来ない。翌日の街頭演説予定を問い合わせてもわからない。自公以外の応援弁士を選挙カーに乗せ、陣営内でもめた……。
「司令塔不在で、組織の体をなしてないんですよ」
有力な支援者の一人は、あきれたように言う。「自民党はもともと、オーナー企業の集合体のようなもの。そこに公明をはじめ、他党や労組も入ってきて、全体を統括する人間が不可欠なのに、誰もその役割を果たさないからバラバラ。前回選挙の反省がまったく生かされていない。それに比べ、維新はトップダウンだから意思決定や指示が早い。現職の強みで業界団体も押さえている。『組織がない』なんて彼らは言いますけど、向こうの方がよほどしっかりした組織を築いてますよ」
そもそも、いざ選挙となってから慌てて候補者探しに動くこと自体、いったいこれまで何をしていたのかという話である。
「選挙というのは、負けた時から次が始まるんです。マーケティングに喩えて言うならば、4年先を見据えて、市場(有権者動向)調査を行い、それを踏まえた商品(候補者)を選定し、販売戦略(選挙戦術)を立てないといけない。そうした活動が皆無だったんです」
結果的に、擁立した候補者は悪くなかった。それどころか、維新の強引な政治手法や詭弁も厭わない言論術に対抗するには、最高の人選だったと言ってもいい。
市長候補の柳本顕は、25歳から大阪市議を5期務め、2015年5月の都構想住民投票では、反対派の先頭に立って勝利に導いた立役者だ。同年11月の市長選では敗れたものの、政策通で弁舌もさわやか。「自民党大阪府連きっての逸材」と言われてきた。7月の参院選出馬が決まっていたところを口説き落とされて、2度目の市長選に挑んだのだった。
知事候補の小西禎一は、橋下府政時に「改革プロジェクトチーム」のリーダーに抜擢され、松井の下では副知事を務めた。「府庁のエース」と言われ、府下の自治体職員まで集まる「小西学校」が開かれるほど、行政内部では人望がある地方自治のプロだった。地味で言葉が硬いのは仕方がないが、本人も自覚し、演説や討論会を重ねるごとに上達していた。
だが、いくら「商品」がよくても、スタートに出遅れ、組織が体をなさず、戦略も後手後手では、巻き返せるはずもない。維新の野合批判に焦り、「共産党とは一切関係ない」と否定して回ることにばかり熱心で、あとは先述したような内情だった。選挙戦中盤以降、マスコミ各社の焦点は既に勝敗にはなく、「松井と吉村の当確をいかに早く打てるか」の争いになっていた(結果、投票締め切りと同時に当確が打たれた)。
自民党大阪府連は、政党としての機能不全を露呈し、自壊してゆく負け戦に、2人の逸材を巻き込んだ。その結果、柳本に「政治家としては息絶えたと思っている」という悲痛な敗戦の弁を吐かせてしまったのである。