「公園の樹木を伐採から守る」との公約で誕生した東京・中野区長が、あっさりと方針転換!?

議会の否決を受けて、区長はあっさりと方針変更

18年1月17日時点での公園。だいぶ伐採が進み、殺伐としてしまった

2018年1月17日時点での公園。だいぶ伐採が進み、殺伐としてしまった

 それから3日後の3月18日、酒井区長は以下のようなコメントを発表した(概要)。 「私は、平和の森公園再整備計画について、多くの区民の皆様のご意見などを伺ってきました。これを踏まえ、300メートルトラックの整備中止などを内容とする変更案を取りまとめました。そして、この変更案を提案致しました。しかしながら、区議会における審議の結果が否決となりました。今後の平和の森公園再整備については、この議決を受け、当初の再整備計画案に沿って整備を進めることとなります」  岩村さんは「え? 平和の森公園を守る公約をしていた区長が、これだけ?」と目を疑ったという。他の区民も、「あまりにもあっさりと工事推進に舵を切っている」とがっかり感を隠さない。ツイッターでも、区民らから「言葉が出てこない」「悲しくて泣ける」などの言葉が続々と投稿されている。実際、区長からは今回の結果に対して、何の経過説明も結果弁明もないのだ。  冒頭の裁判はそのわずか2日後だった。弁護団にすれば「変更案」が可決されれば勝訴は確実になるのだが、そうはならないどころか、酒井区長の急な方針転換で裁判の方向性が見えなくなったのだ。  11時半に開廷した口頭弁論でも、小島弁護士は裁判長に対して「何がどうなっているのか分からない状況になってしまいました。その『何がどうなっているのか』を調べたいので、もう少しお時間をいただきたい」と述べると、古田孝夫裁判長も「確かに状況は流動的ですね」と認め、この日、実質的な審議は行われず、次回口頭弁論が5月13日と指定されただけだった。

「事態は急変、草地広場ではすでに伐採が始まっている

野外での集会

2018年6月13日、第2回口頭弁論のあとでの野外での集会。立って話しているのが主任弁護士の小島延夫弁護士。この時はまだ、酒井新区長を応援しようとの空気に満ちていた

 裁判後、裁判所内の控室で急きょ住民による話し合いが行われた。  小島弁護士が「4月には中野区でも統一地方選挙の区議会選挙がある。酒井区長はせめて、『今回は否決されたが、4月の選挙後に案を再構築する』との発議をすべきだったのに、何もなかった」と述べると、住民が次々と意見を出した。 「公明党は『パブコメがない』が反対理由だったので、区長は『ではパブコメを取りましょう』と発議してもよかったはずだ」 「4月の区議会選挙で、もし自公が少数派になったら計画変更もありえるので、まず公園を守る議員を多数選出することを考えよう」 「いや、自公が勝つ可能性もあるので、その場合、どう闘うかも考えなきゃ」 「その場合でも、区長に新しいコメントを出してもらうよう今から動く必要はある」 「区長の任期はまだ3年以上もある。しょっぱなからこれでは、これからの区政が思いやられる。だからこそ、区長を励ますような運動も必要だ」 「請願だってできるし」  この日、統一した意見は出なかった。「守る会」はその後、23日に区民を集めての緊急集会を開催したようだが、おそらく4月の区議選を区民としてどう取り組むかが課題の一つになったはずだ。  事態は急変した。議会の決議と区長の方針転換により「変更案」がなくなったことで、区が区民向けに開催予定だった3月21日と22日の「変更案」説明会もなくなった。同時に、草地広場ではすでに伐採が始まっているという。  これまでの4年間の住民運動が一気に水の泡となるのか。「守る会」の女性メンバーはこう語った。 「諦めません。まだまだ私たちにやることはあるはずです」 文・写真/樫田秀樹
かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。
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