同床異夢の反対運動!? それぞれが掲げる「反対理由」とは
それでは、新駅名について反対する理由は一体どういったものなのか。記者会見における各人の主張をまとめてみたい。
まず、反対署名の創始者でもあるエッセイスト・イラストレーターの能町みね子氏は、新駅名を聞いた際に「愕然とした」と述べたうえで、「選定の経緯が不透明であること」「歴史を踏まえておらず、語感も悪いこと」を理由に反対運動を開始したと語った。
そして、日本語学者の飯間浩明氏は「高輪は古くからの歴史が蓄積されている街であるのに『高輪といえばゲートウェイ』になってしまう」ことへの危惧を述べたうえで「江戸時代の歴史ある街として集客できる可能性があるのに、その可能性を潰されてしまう」と指摘した。
「高輪」といえば泉岳寺、高輪神社、旧高松宮邸など歴史スポットが多いエリアでもある
また、地図研究家の今尾恵介氏は、今は消えてしまった地名が駅名として残り続けている例を挙げた上で、「(『高輪』のような)歴史的な地名をそのまま駅名につけることは古いようで新しい」と述べ、「(ゲートウェイという)『商品名』が『地名』として認識されてしまう」「100年200年と続くかも知れない駅名を(カタカナが混じるような)不自然な『キラキラ駅名』にすることがかえってダサい」と主張した。
一方、今尾氏はこれに合わせて「これから新しい駅名が付けられる時に変な駅名が付けられないような空気にしていきたい」という趣旨の発言も行っており、この運動による「高輪ゲートウェイ撤回」よりも、今後の「キラキラ駅名増殖」に対する危惧感からこの運動に参加したことも匂わせていた。
記者会見で意見を述べた各人の意見を簡単にまとめると、能町氏は「『JRのエゴで決めたしっくり来ない駅名を使わなければならない』ことに対するモヤモヤ感」が、飯間氏は「歴史ある『高輪』のイメージが『ゲートウェイ』になってしまうことへの危惧」が、今尾氏は「キラキラ駅名増殖による『地名軽視』に対する警鐘」が反対運動参加への大きな動機となっていることが伺え、いわば各人の立場からによる「同床異夢」の反対運動であるとも感じさせられる会見であった。
なお、「山手線新駅の名称を考える会」全体では、「『浅草』や『銀座』のように、駅周辺が地名ブランド化するためには、伝統的地名を選ぶべき」としており、新駅名を「高輪」にすることを求めていくとしている。
「高輪ゲートウェイ駅」の横を走る山手線。写真のE231系は同駅の開業に合わせて山手線から姿を消す
高輪ゲートウェイ駅が建設されるのは、1930年から2013年まで田町車両センター(旧・田町電車区)という車両基地があった場所になり、新駅の開設は先述したとおりJR東日本主導の再開発「グローバルゲートウェイ品川」事業の一環として行われるものだ。一企業の立場としては、自社主導の大型再開発をアピールしたいのは当然であり、その再開発名を冠したシンボリックな駅名を付けたいのは当然であろう。
一方で「駅名」というのは公共性が非常に高いものであり、特にこれまで伝統的地名に由来する駅名が多い東京の大動脈・山手線ともなれば尚更のことだ。
JR東日本は新駅の名称を変える考えはないとしている一方、「山手線新駅の名称を考える会」は、新駅の名称変更とはいかないまでも、今後も新駅を愛称として「高輪」と呼ぶ活動を続けていく予定だという。
早くも開業まで約1年を切った「高輪ゲートウェイ駅」。果たしてあなたは何と呼ぶ……?
<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
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