差別を許してはいけない、たった一つの確かな理由

「いまの世の中っぽさ」を象徴するNZの事件

EPA=時事

 ニュージーランド南島のクライストチャーチで起こったモスク銃撃事件から1週間がたった。  この事件が世界から注目を集めたのは、50人超という犠牲者の多さだけではあるまい。犯行の様子をネット中継していたことや、犯人の身勝手かつあまりにも典型的で幼稚でいかにも頭の悪いレイシストらしい主張内容などなど、事件のすべてが「いまの世の中っぽさ」を漂わせている。

注目すべき、アーダーン首相とNZ政府の対応

 しかしなによりも注目されるべきは、ジャシンダ・アーダーン首相をはじめとする、NZ政府が事件後に見せた対応だろう。事件直後、NZ政府は、事件の犠牲者の葬儀費や治療費のみならず、遺族の生活費など、さまざまな手当を、犠牲者の市民権の有無を問わず支給すると発表した。そればかりではない。アーダーン首相は事件後からずっとヒジャブをかぶり続け、弔問の場などムスリムと出会うたび、ハグをし頭を下げ弔意と同情を示し続けている。  首相は国会でこうも発言している。 「テロ攻撃で犯人はさまざまなものを手にしようとした。その中の一つが『悪名』だ。だからこそ、私は、あの犯人の名前を、決して口にしない」と。  なぜここまで踏み込むのか――。  首相以下NZ政府の高官が事件後繰り返し口にする「ニュージーランドは一つだ」というスローガンがその答えだろう。NZ政府はこの事件によって、社会が分断されることを防ごうとし、否応なく生まれてしまった社会の亀裂を修復しようとしているのだ。
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差別は社会を分断し、いずれ滅ぼす
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