このような状況を抱えている日産スペインでは、3月27日、「日産ヨーロッパ」、「ヨーロッパ日産―ルノー」そして「日産スペイン」のそれぞれトップの経営者3人と各組合側の代表者との間で会合がもたれた。
この会合の席で経営者側は4月のイースターに入る前までに500人の早期退職者と100人の任意退職者の合意を組合側と結びたいということが表明された。一方、組合側では600人の解雇を受け入れるには今後会社が存続するという保障を要求した。
組合側で懸念しているのは、600人が解雇された後、例えば1年半先には200人が余るということでまた従業員の削減が経営者側から要望が出されるようになる可能性があるということ。このような状況に陥るのを避ける為には生産台数の増加が必要だ。それには新たに生産する車種を増やすことだと組合側は要求しているのである。
経営者側では現在の塗装設備が欧州連合が環境保護の為に2023年から規定する基準を満たないことからその設備改善に7000万ユーロ(91億円)を2022年まで3段階に分けて投資をすると約束してる。(参照:「
Coche Global」)
20万台を生産できる能力をもっているにもかかわらず、これまで毎年生産台数が減少している現状を前に、組合側では17万5000台の生産台数のレベルまでなる保障を経営者側に要求している。その為にも、生産に新しい車種を加えることだとしている。
スペイン労働総同盟(UGT)のハビエル・エルナンデス代表は「生産回復の為のプランを伴わない従業員の削減は、会社が(将来的には)閉鎖されることを意味するものだ」と懸念を表明している。スペイン労働者委員会(CCOO)のミゲアンヘル・ボイサ(日産スペイン)委員長は「交渉のテーブルに(生産台数を増やすという)保障をしない限り、信用できない。それが交渉に応じる為の基本事項だ」と語っている。(参照:「
Coche Global」)
更に、ボイサ委員長は「交渉のテーブルに乗せるプランが我々従業員にとって満足行くものでない場合は抗議の為の必要な動員を招集する予定だ」と述べた。また、4月のイースター前までに合意に漕ぎつけようとしている経営者側の姿勢に対して、「(交渉)条件について必要な時間を(我々に)持たせないようにしているのはゆすりだ」と経営者側の姿勢に憤慨していることを表明した。
また、組合側がメディアにも伝えるべく持ち出して来たのは、2009年から日産スペインはスペイン政府とカタルーニャ政府から1億7970万ユーロ(233億円)の補助金と融資といった形で支援金を享受して来たということ。経営者側では、その一部は顧客への販促に向けられた金額も含まれているとして、その全額を日産スペインが享受したのではないとしているという。(参照:「
El Mundo」、「
La Vanguardia」)
経営者側の考えは、今回の合意は2021年までのこの先3年を見据えたものだとしており、600人の従業員削減をしたあと2500人程度の従業員で新車種も加えることなく次の飛躍の為に当面は安定した経営を行いたいとしている。この2年間、経営は黒字である。
日産スペインは今後も存続して行くことは明白だということを表明するかのように、つい先日は新たに4月からギアボックスの生産に1000万ユーロの投資を発表した。(参照:「
El Periodico」)
しかし、依然として組合側の不信感は根強く残っている。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身