では、枝葉末節ではない、森友問題の本体であるはずの「国有地不当廉売問題」は一体どうなったのか。メディアが取り上げないということは、一切進展がないのか。
決してそうではない。むしろ、今年になって「どのようにしてあの国有地が大幅値下げされたのか」については、真相究明に向け、大きな前進がみられた。
例えば、今年年初に行われた「野党合同ヒアリング」では、国有地値下げの根拠となった「地下のゴミ」の存在を立証するはずの現場試掘穴の写真が使い回しであったことが、「瑞穂の國記念小學院の建設」を担当した藤原工業の証言によって判明している。後日、藤原工業は同様の内容を、国土交通省宛に書面で回答してもいる。
国有地値下げの根拠が完全に崩壊したのだから、当然この問題は国会でも取り上げられてもいる。衆議院の財政金融委員会では、立憲民主党・川内議員からの本件に関する質問に、従前の政府答弁との食い違いを恐れた国交省担当課長が、答弁不能に陥る一幕さえあった。しかしメディアが国有地不当廉売の真相解明につながるこの大きな前進を、大々的に報じた様子はない。
これまで政府は「不動産鑑定によって出された不動産価格から、ゴミ撤去費用等を除外して、最終売却価格を決めた」という答弁を繰り返してきた。これが「値下げは正当であった」と主張する政府側の防衛ラインだ。先述の「試掘穴写真が使い回しだった」という問題は、この政府側答弁の「ゴミ撤去費用等を除外して」という部分を否定するもの。ゴミ撤去費用の積算資料が信用ならないのだから、値下げ「幅」が信用ならないではないかという指摘だ。
これに加え、今国会では、「そもそもの不動産鑑定価格がおかしいのではないか」という点も立証されつつある。籠池氏の初公判が開かれる2日前の参院予算委員会では、「会計検査院の報告を読むと、財務省は、不動産鑑定書を入手する前に、売却価格を決めていたとしか受け止められない」との趣旨で質疑を行った自由党・森ゆうこ議員に対し、財務省側の答弁と、会計検査院の答弁が食い違うという珍事まで発生している。もはや政府側は「ゴミ撤去費用」だけでなくそもそもの「不動産本体価格」さえ、まともに答弁することが不可能なところまで追い詰められているのだ。しかし、この重大な答弁に関しても、メディアが詳報を伝えた形跡は一切見当たらない。
衆議院における立憲民主党・川内議員の質疑も、参議院における自由党・森ゆうこ議員の質疑も、森友問題の中核である「なぜあの国有地が大幅値下げされたのか」に関する、政府の最終防衛ラインを打ち崩すものだった。いや、さらに厳密にいえば、両議員の質疑によって、2017年以来、政府が主張してきたことが全て嘘だったことが立証されたと言っていい。
しかし、メディアはこれに触れない。事件の中核に一切関係ない、枝葉末節で、取り上げる必要のない、籠池氏の詐欺容疑に関する初公判の話題にばかりリソースをつぎ込み続ける。
安倍政権の隠蔽体質を批判する声は高い。しかしこうしてみると、その隠蔽体質に加担し加速させているのは、安倍政権ではなく、「おもしろキャラ」に飛びつき、取材しやすい対象を消費するしか能のない、我が国のメディアであると、断ぜざるを得ないだろう。
<文/菅野完> ――『月刊日本4月号』より転載
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『
日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。現在、週刊SPA!にて巻頭コラム「なんでこんなにアホなのか?」好評連載中。また、メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(
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