モラハラは、モラ夫が家長/支配者の地位に就いたと確信したときに始まる。その確信は、結婚、第1子・第2子出産、マイホーム購入など「引き返せない」節目や夫の昇進など地位の向上時に生じる。私はこれをモラスイッチと呼んでいる。
さて、モラハラは、モラ夫=家長/支配者である根拠の強調から始まることが多い。「俺が稼いでる」「誰のおかげで食えるんだ」「俺は苦労している」「俺がこの家の主(あるじ)だ」「俺に逆らうのか」などがこれに該当する。
妻に対して、妻=能力の劣る従属者であることの確認的な表現が繰り返されることも多い。「お前はバカ(アホ)だ」「何もわかっていない」「俺がいないと生きていけない」「俺が指導してやる」「俺と同じだけ稼いでから(意見を)言え」などがこれに該当する。
「味噌汁がぬるい」と怒った次の日に「こんなに熱い味噌汁が飲めるか」
モラ夫は、モラハラにより、妻の思考能力を奪っていく。
よくある手法は、怒る、怒鳴るなどである。しかも、突然怒る、すなわち、キレるのが効果的である。成人男性が、突然切れて怒り出せば、間違いなく迫力があり、気丈な女性であっても、怖いと思うはずだ。そして、怒ることの是非をおいて、妻は、夫を怒らせないように気遣うようになる。
同じ理由で怒るときは、「何度言ったらわかるんだ」と責めて妻に罪悪感を植え付ける。
他方、怒る理由がその都度矛盾するのも効果的だ。例えば、ある日、「味噌汁がぬるい」と怒り、別の日は「こんなに熱い味噌汁が飲めるか」と矛盾した理由で怒る。
突然キレられ、都度怒る理由が違うと、妻は混乱し、いつ怒られるか怯えるようになる。怖さと責め立てられて生じた自責の念から、モラ夫のご機嫌をうかがい、怒られないように先回りして、モラ夫の要求に応えようとする。
これが繰り返されると、モラ夫の要求・思考が妻の心理に内在化し、妻の行動、思考をコントロールするようになる。私は、これを「脳内モラ夫」と呼んでいる。脳内モラ夫が確立すると、例えば、スーパーで買い物しようとすると、「それ本当に必要か」「そんなに高いものを買うのか」という「夫の声」が聞こえたりするという。
こうして、妻は、「夫の怒り」を心底怖れ、「夫が怒るかどうか」を基準として行動するようになり、支配従属関係が確立する。
多くのモラ夫は、怒り過ぎであることを認識しているのだろう、自ら理不尽に怒っておきながら、「怒らすお前が悪い」と責任転嫁することも忘れない。