コスタリカが「2050年までに国まるごと脱炭素化」のロードマップを発表

野心的年次目標を含めたロードマップも公表

米国多国籍企業の役員たちに囲まれるアルバラード大統領(中央)

米国多国籍企業の役員たちに囲まれるアルバラード大統領(中央)

 その10の目標を達成するための、大まかなロードマップも公表された。年次順に並べると、以下のようになる。 2022年 ・貨物車両の排出ガスに関するインデックスを作成。トラックの効率向上のための輸送ロジスティクスパイロットプラン発足 ・有機廃棄物由来のメタン排出削減のための最適技術開発国家戦略プランの確立 2025年 ・ゼロ・エミッション二輪車の推進 2030年 ・100%再生可能エネルギーによる国内電力マトリックスの達成 ・新築建造物への再生可能エネルギーによる熱および熱水利用と程排出基準の適用 ・ゴミの削減とその取り扱いについての市民・企業文化の創出 ・生物回廊の制定と森林率を60%まで向上 2035年 ・バス・タクシーの70%をゼロ・エミッション化 ・鉄道の100%電化 ・全車両の25%を電力駆動車に 2050年 ・主な移動手段を私的なものから公共交通に代替 ・バスとタクシーを100%ゼロ・エミッション化 ・全新車をゼロ・エミッション車に、全登録車の60%をゼロ・エミッション車に ・貨物車両の50%を高効率車に ・貨物輸送セクターの排出ガスを2018年度比20%削減 ・全建築物への再生可能エネルギーによる熱および熱水利用と程排出基準の適用 ・産業セクターのより低排出エネルギー源への貢献 ・国内全地域においてゴミの収集・分別・再利用・廃棄問題の解決 ・食料輸送の最低50%を高効率化し、同分野における排出ガスを2018年度比20%削減 ・国内牧畜業における持続可能性、競争力、低排出基準を満たす最も進んだ技術の適用  分野で分けるとするなら、運輸・交通、廃棄物、建造物、農牧業の4つに大別できる。2007年にカーボン・ニュートラル国家を目標に掲げてから、環境エネルギー省を中心に脱炭素化の課題と道筋に関するリサーチが継続的に行われてきた。それが反映された形だ。  ちなみに重工業がそれほど発達していないため、その分野に関する言及はほぼない。日本と比較する場合、この差異に注意する必要があるだろう。

技術的課題は今後2年間で整理。まずは資金確保と企業の協力を得る

クリスティアーナ・フィゲーレス元気候変動枠組条約締結国会議事務局長も脱炭素化国家計画発表式典で挨拶

気候変動枠組条約締結国会議の元事務局長、クリスティアーナ・フィゲーレス氏も脱炭素化国家計画発表式典で挨拶

 今回は分野ごとの年次目標を掲げるにとどまり、技術的課題はこれから約2年間かけて議論し、まとめることになっている。  最大の問題は、技術よりもその技術の開発とインフラ整備などに投じる資金的問題だとコスタリカ政府は考えているようだ。確かに、先立つものがなければ計画は実行しようがない。  PND発表時には米州開発銀行(IDB)の気候変動および持続可能性担当局長であるアマル=リー・アミン氏も列席した。現地英字紙『Tico Times』によると、IDBはPNDに対して3500万ドル(約39億円)を供与。エコシステムの管理を通じた生物多様性の持続可能な利用に使われるという。  3月中旬にはアルバラード大統領みずからシアトル、サンフランシスコ、シリコンバレーに赴き、アマゾン、マイクロソフト、ヒューレットパッカード、インテル、グーグルなど大手国際企業の役員たちと懇談し、コスタリカとの関係強化を呼びかけた。  基本的には雇用や技術教育を要請した形だが、PNDを発表した直後の訪問だけに、それらの技術と持続可能性がリンクした話だと推測される。たとえば、アマゾンに対してはコスタリカ国内、特に郊外における自宅テレワークでの雇用増大を求めた。テレワークは、移動距離を減らすことで排出ガス削減に貢献するとコスタリカ政府は考えているからだ。  こうして、ついにコスタリカの「持続可能国家」建設計画がその幕を開けた。今後も随時その動きをお伝えしたい。 「持続可能国家」コスタリカ 第11回 <文・写真/足立力也> コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。
コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。
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