安倍首相の防大卒業式における改憲意欲表明が「論外」である2つの理由

「改憲への意欲」を防大卒業式で述べるのは暴挙

 防衛大学卒業生は、卒業証書を受領後ただちに、陸海空それぞれの幕僚長から各軍種の曹長に任命され、一般幹部候補生という立場になる。つまり、学生から社会人になるわけだ。卒業生たちが正式に「自衛隊の隊員」となるのはこの瞬間。通常の自衛隊隊員がそうであるように、防大卒業生たちもこの瞬間に「服務の宣誓」を行う。 「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います」  これが、自衛隊法施行規則に定められ、すべての自衛隊員が宣誓する「服務の宣誓」の全文だ。  防衛大学校卒業式の場合は、例年テレビで放映される「卒業生が帽子を投げて散開する」という卒業式の終了後、卒業生たちがただちにそれぞれの軍服に着替え、再度同じ場所に今度は防衛大学校卒業生という立場ではなく、一般幹部候補生という身分で集合し、この文言を一斉に唱和することで、宣誓をする。また、彼らは唱和による宣誓の前に、同一文言の記された宣誓書に署名もしている。そして、この「唱和による宣誓」を聞届けるのも、「署名による宣誓」を受け取るのも、防衛大学校卒業式の場合、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣ということになっている。  つまり、安倍首相は今年の防衛大学校卒業式で「改憲に対する意欲」を表明した直後、「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し」という「服務の宣誓」を聞き、署名済宣誓書を受け取っているということになる。これはあまりに、自衛隊の職務を軽んじる態度と言わざるを得ないではないか。自衛隊の隊員諸君の志を踏みにじる、暴挙とさえ言えるだろう。

自衛隊の立場を危うくしているのは誰なのか?

 衆参両院で3分の2を超える議席や、一部の狂信的な支持者からの後押しを受け、安倍晋三個人が、改憲に前のめりになる姿は、もはや珍しいものではなくなっている。おそらく本人もそれが常態化してしまっているのだろう。そして今回、この前のめりな姿勢は、防衛大学校卒業式にて内閣総理大臣としての職責を忘れさせ、自衛隊諸君の宣誓を反故にしかねない醜態をさらす結果となった。  その結果は、すでに最悪の結果として具体的に、表面化している。  今年度の防衛大学校卒業生は478名。そのうち、自衛隊への任官を拒否したのは49名にのぼり、昨年度から11人増となった。任官拒否者の数は、人数ベースで、過去10年で最多を記録したという。  果たしては安倍首相は、この数字を、どう受け止めるのか。国防という崇高な義務をないがしろにし、自衛隊の立場を危うくしているのはだれか、そろそろ首相は冷静に反省すべきだろう。 <文/HBO編集部>
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