ベストセラーが助長する外国人への偏見。『日本が売られる』で書かれた「保険制度への“ただ乗り”」は実態なし

外国人の“ただ乗り”報道

 しかし、外国人が医療保険に“ただ乗り”しているという報道は今に始まったことではない。  昨年7月には、NHK『クローズアップ現代+』が「日本の保険証が狙われる~外国人急増の陰で~」を放送した。番組によると、がんになった60代の中国人女性が、日本人と結婚した娘を頼りに来日。娘の夫の扶養に入ることで保険に加入した。  女性はすぐに大腸がんの手術を受け、その後も抗がん剤治療を続けていたという。かかった治療費はおよそ200万円だが、女性の自己負担額は20万円で済んでいる。同番組では、女性が保険料を支払っていなかったにもかかわらず、医療保険に“ただ乗り”したと非難している。  移住連はこの報道に対しても意見書を提出。健康保険の保険料は被保険者が支払っており、家族や親戚を被扶養者にすることは認められている。海外に居住していた被保険者の家族が日本に戻ってきた場合にも、同様のことが起きるとしている。  他にも、2017年から2018年にかけて、週刊誌や保守系の雑誌で同様の報道があった。  移住連の事務局次長を務める安藤真起子さんは、こうした報道に対して懸念を露わにする。 「ここ数年、外国人の保険利用について、誤った報道が続いています。こうした情報が拡散すると、差別や偏見を助長する危険があります。なぜ堤未果さんは、週刊誌や雑誌の報道を検証せずに、同じようなことを著作で書かれたのでしょうか。堤さんは著名なジャーナリストで影響力も大きいため、偏見が広がってしまうのではないかと危惧しています」

「外国人に仕事が奪われる」という根強い偏見

医療制度への“タダ乗り”以外にも、外国人への偏見は流布している。4月からの受け入れ拡大を前に「仕事を奪われる」、「治安が悪化する」と誤解している人も少なくない。なぜこのような誤解が起きるのか。安藤さんは、こう指摘している。 「外国人は外部からの『侵入者』と認識されているからだと思います。また、日本では、日本社会は日本人のためのものという価値観も強いと思います。しかし、実際、この社会はすでにさまざまな国籍、ルーツを持つによって構成され、形作られています。」  外国人を外部からの「侵入者」として位置付けてしまっては、今後来日する外国人との共生は成り立たない。安藤さんは「共生社会をつくるには、国籍や在留資格の違いにより日本人と同等の権利を持てないでいる外国からの移住者への権利保障のしくみが必要です。だから私たちは国政への働きかけに取り組んでいます」と語った。 <取材・文/HBO取材班>
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