「美人すぎる囲碁棋士」黒嘉嘉が、「AIの躍進」をさほど危惧していないワケ

学校には勉強だけでない人間形成に大事なことがある

 このインタビューは英語で行ったが、黒嘉嘉が英語を話すのは中国語を話せない父親と話すときだけだという。だが彼女の英語はオーストラリア風ではなく米語に近い。 「姉も英語は話せますが、いつも中国語で話しますし、台湾では中国語しか話しませんからね。英語を学んだのはアメリカで暮らした三年だけで、しかもあれから十年たってその後は父と話すだけですから今の私の英語は中国語と同じようには話せていないでしょうね。ですからできるだけアメリカのドラマや映画を見てさびつかないようにしています」  井山裕太も張栩もそうだが、日本のトップ囲碁棋士の大部分は中卒でその後は囲碁に専念している。黒嘉嘉を含む台湾の囲碁棋士は学歴をどのようにとらえているのか。 「台湾でも中学卒業後は自宅学習の形態をとることが多いですね。それでも試験に合格すれば卒業資格をとることは可能です。私自身は米国での中学を卒業し、その後はプロ棋士になりましたから高卒資格は持っていません」  では仲邑菫については今後学校とどう付き合っていけばよいと考えるのか。  「彼女の場合はまだ小学生ですから、学校で一番大切なことでは勉強ではないと思うんですよね。同級生の友達を作ることが人間形成の上で大切だと思います」  だが現実問題として、仲邑菫は日本の小学校より、韓国の囲碁塾で過ごす時間のほうが圧倒的に多い。何より、今回の黒嘉嘉との記念対局も平日に行われているわけで、当然小学校は休んでいる。筆者に言わせれば、今後本気でプロ棋士として生きるなら、それが正しい。 「それなら、行けるときだけ小学校に行けばそれでいいと思いますよ」

黒嘉嘉、そして仲邑菫が作る「囲碁の未来」

 最後に写真撮影をと言った時、黒嘉嘉は「何かポーズをとりましょうか?」と聞いてきた。「いや、自然に笑顔で話してくれたらそれでいいから」と筆者は答えたが、それだけメディア対応に長けているということをさらに強く印象付ける一言だった。  かつて、将棋の内藤國雄九段は演歌「おゆき」を大ヒットさせ、将棋への関心を高めた。黒嘉嘉には、ぜひ囲碁と並行して芸能活動も窓口にして、さらに囲碁を広めてほしい。  仲邑菫のプロ入りを聞いたとある筆者の友人は「十歳で人生が決まるなんて、本当に幸せなのか」と聞いてきた。そこでこう答えておいた。 「本人は気付いていないかもしれないけど、こんなに幸せなことはないんだよ。まず人生のスタートラインに立たせてもらえて、両親は孟母三遷を実施してくれているわけだから」  かつて橋本宇太郎は「囲碁は百年をつなぐ」と言った。幼くは五十歳年上の相手と、老いては五十歳下の子供と対局して「百年をつなぐ」という意味だが、仲邑菫にはぜひ卓球そのものを変え、中国でも台湾でも愛されている福原愛の囲碁版になり、アジア各国をつないで彼女と同じく成人したら家庭にも恵まれるようになることを心から願うばかりである。 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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