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現在の日本では、いわゆるヒートショックなど家の寒さが原因で亡くなる人の数が、交通事故を上回るようになっている。寒さによって健康に悪影響を受けやすいのは一般的に高齢者で、今後は社会で高齢化がさらに進むため、この問題はより深刻になってくる。
対策としてさまざまな提案がされているが、もっとも効果的なのは既存住宅の断熱性能を高め、朝晩の冷え込みや部屋ごとの温度差を少なくすることだ。そのような住宅の断熱化を、事業者任せではなく、一般の人がDIY(Do It Yourself)で手掛けようとする動きが広がっている。自治体が主導した川崎市の取り組みを紹介する。
「健康寿命」を伸ばすため、建物の断熱化が自治体の重要課題に
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川崎市の健康寿命と平均寿命の差
高齢化社会を迎えたいま、健康リスクや医療費を抑制し健康に過ごせる期間、いわゆる「健康寿命」を伸ばすことは、自治体にとっても重要な課題となっている。
都心のベッドタウンである神奈川県川崎市は、人口がおよそ150万人。そのうち65歳以上の高齢者の割合はすでに20%を超え、2050年にかけて約33%と急激に増加すると予測されている。全国平均と比べれば増加率はゆるやかではあるが、将来的には、高齢者の数は飛躍的に増えていくことになる。
さらに市の平均寿命と健康寿命との差は、男女ともに全国平均よりも1歳前後大きい。これは、寿命は長くても寝たきりなど健康ではない状態の期間が長いという意味になり、改善の余地がある。そこで川崎市は住宅基本計画で、住宅の断熱化や温熱環境の改善に向けた普及促進等を重要な課題として位置づけることとした。
とはいえ、単に断熱リフォームに対して補助金を付けるだけでは、市民の関心は高まらない。また、断熱することでどれだけ効果があるかというイメージが湧きにくいということもあり、普及に向けて体感できる機会を設ける必要があった。そこで川崎市は、専門家の力を借りながら、ワークショップ形式で断熱リノベーションを開催することにした。
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断熱ワークショップの会場となった集会所
2019年2月上旬に2日間にわたって行われたワークショップには、市内在住の18人が参加。1日目は座学で基礎知識を学び、2日目にDIYを実践することになった。会場は、築30年になるコンクリート製の市営住宅の集会所だ。実践編では、プロの大工さんから道具の正しい使い方や作業のコツを教わりつつ、参加者が畳と窓の内側に設置された障子を断熱改修した。
まず床の断熱では、畳を上げて床の全面に気密シートを敷き込み、その上に4ミリメートルの断熱ボードを敷き詰めた。気密シートは、風や水は通さないが、結露をしないよう湿気が抜けるようになっている。
今回使用した薄い断熱ボードだけでは効果は限定的だが、気密シートが床下からの冷気を遮断するため、組み合わせることで威力を発揮する。施工後に足を置くと、熱が下に抜けていかないので、施工前とは明らかに温かさが違う。
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床のサイズに合わせて断熱ボードをカットする