ピッツバークからフリントへ。悩ましい公共水道を民間企業に任せてしまった悲惨な結末

コスト削減の代償

 コスト削減は水道運営の資金不足にあえぐ自治体に向けたヴェオリアのトップセールスポイントだ。ピッツバーク市も例外はない。2012年にヴェオリアと契約することを決めた同市は7億2000万ドルの債務を抱えていた。  契約はヴェオリアの「ピアパフォーマンスソリューション(peer performance solution)」モデルで、支払いの一部については会社が削減できたコストの金額に基づいて計算される。とはいえ固定の支払額はあり、ピッツバークのPWSAは初年に180万ドルを支払った。契約はヴェオリアによるコスト削減の約束を含み、それは年間100万ドルから400万ドルと試算された。契約によるとヴェオリアは削減できた金額の50%(初年)、それ以降は40%を、PWSAから報酬として受け取るとされていた。  事実、2年以内にヴェオリアはPWSAに250万ドルの新しい収入源を見つけ、年間300万ドルの運営コストの削減に成功した。加えて、債務のリファイナンスの速度を速めることで200万ドルの節約を実現したと官民連携(PPP)国家評議会は2014年に発表した。  しかしこれらの削減を実現するためにPWSAは数々の組織的な変更を余儀なくされた。水道水の鉛汚染がおきる数年前の話である。  PWSAの安全管理マネージャであったトンヤ・パイネはヴェオリアの運営になって以降PWSAは重要なポジションにある従業員を解雇するか他の部署に移動させたと説明する。「ヴェオリアが来て即座に財務部長と施術部門部長が解雇された」とパイネは言う。 「自分たちも危ないと思った」  Wiredの記事によると2015年末までに水質の安全管理のマネージャーたちと水質検査試験所のスタッフの半分を含む23人のPWSAのスタッフが解雇された。  水質責任者であったスタンレー・スタテスは36年間水道局で務めたが2013年に退職した。「私はまあ追いやられたようなものだ」スタテスは言う。 「彼らは私を他の部署に押しやった。それで私は退職したよ」 「ヴェオリアはすべてを完全に掌握していた。これが私たちのやり方だって言ったよ。ヴェオリアは来て早々執行部を追い出し自分たちが取って代わった」  微生物学者としてPWSAで30年務めたジャイ・クチャは2014年1月に仕事場を去った。 「ヴェオリアにとって私の意見は取るに足らないものだった。私の考えでは水の処理はその水源によってスタッフの経験が極めて重要となる。しかしヴェオリアはすべての場所で同じように使えるやり方を採用した。私たちはこのやり方で水を処理するし、他の都市でも同じように行うと。もし彼らが私たちの意見をもう少し聞き、水は場所、場所によって違うものだという意見を受け入れていれば、私はもう少し我慢できた」  PWSAはヴェオリアの契約下で腐食コントロールの化学薬品を低価格のものに変えた。2014年4月、PWSAは鉛や他の重金属を水道水から取り除くための薬品をソーダ灰から安価な腐食剤ソーダに変えた。この変更は法で定められているにも関わらずペンシルベニア州環境保全局の許可を取っていなかっただけでなく、PWSAの理事会にも報告されていなかった。  1月まで引き伸ばされた調停の焦点はPWSAとヴェオリアのどちらがこの化学薬品の変更の責任を持っていたかであった。地元テレビが入手したeメールの情報によるとPWSAのスタッフが最初に変更を提案した。インターセプトに送られたヴェオリア広報担当ブラークからのeメールは、この点を強調した。「鉛濃度の上昇は、私たちの知らないうちにPWSAのスタッフが腐食を防ぐ薬品の変更を行った後に起き、私たちは数か月の間そのことを知らされなかった」「PWSAはその理事会を通して資材とインフラに関わるすべての投資の決定の責任を有していた」と書面で返答した。  鉛濃度は薬品変更の前から少しづつ上昇していた。水道管と建物をつなぐ部分の管が鉛製でそれらの変更が必要だったのだ。しかし濃度が劇的に上昇したのはヴァオリアがシステムの運転管理をしてる期間だ。2010年、水質テストのサンプルの鉛濃度は10ppbであった。本来、数値は0であるべきだが、国が定める安全基準の限度は15ppbである。2013年までに濃度は14.8 ppbとなった。そして2016年6月のテストでは22ppbに上昇し国の安全基準を大きく超えてしまった。  鉛汚染による健康被害はIQの低下や学習困難を含む発達障害と言われており、何人の子どもたちが影響を受けたのかはわからない。検査を受けたピッツバークの子どもで血液中の鉛濃度が上昇した人数は2013年から2015年に増加した。  アレゲニー郡監査人のチェルシー・ワグナーは、ピッツバークの鉛汚染は様々な要因が絡んでいるが、腐食コントールの薬品の変更が「問題を起こしたか加速させた」と言う。  ピッツバーク市長のウイリアム・ペドゥトーは、本来ならばスタッフとサービスの維持に使われるはずのピッツバークのお金がヴェオリアの懐に入ったと、ヴェオリアとの契約の問題を指摘する。「2012年に結ばれた契約は、さらなるコスト削減をすればヴァオリアへの支払いは増えるので、企業にコスト削減の動機付けを与えた」とペドゥトーは2017年3月の公聴会で言った。 「どこでコスト削減するか、スタッフを解雇するのと必要な投資を行わないことだ」  フリントは2015年の時点で国のどこよりも水道料金が高くなったが、同様にピッツバークでも水質が悪化したにもかかわらず、水道料金は急騰した。ヴェオリアとの契約から1年後の2013年、以後4年の20%の料金値上げを市議会は承認した。2015年、請求書の間違えを訴える5万件の苦情にPWSAは忙殺された。その多くはヴェオリアの運営下で付け替えられた新しい水道メーターに起因していた。一部の利用者は数千ドルも間違った請求をされていた。
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フリントでも水道水の鉛汚染
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