上峰町のこうした動きを受けたイオン九州は、町にイオン上峰店の土地・建物を無償譲渡することで基本合意する方針を発表した。
「無償」とは太っ腹に思えるが、これだけの規模の建物を解体するとなれば数億円の費用がかかってしまう。イオン九州にとってみても大型空き店舗の引受先が早期に決まったことは「渡りに船」だったであろう。
上峰町は、民間資金を活用するPFI方式での再開発を行うべく、同店跡地とその隣接地(自動車学校用地跡など)の約6万3700㎡の民間事業者を公募することを決定。選定された事業者は特別目的会社(SPC)を設立して開発が行われることになる。公募は既に行われており、イオン閉店後の2019年5月に優先交渉者が選定される予定だ。
新たな施設はこれまで明確な中心地がなかった(イオン周辺が事実上の中心となっていた)上峰町にとって「中心商店街における中核施設」になるものと期待されており、公共機能や住機能なども設けられるとみられる。また、幹線道路沿いであるため、「道の駅」的な施設を併設することもありうるが、現段階ではどういった内容となるのかは未定だといい、今回の取材においては上峰町から具体的な開発計画などを教えて貰うことはできなかった。
一方で、開発を前に上峰町が行ったサウンディング型市場調査では、民間コンサルタント会社から「採算を採るためには商業機能を併設することが不可欠」だと指摘されており、新施設内には再び商業床が設けられることが確実視されている。しかし、当然ながら商機能の業態によっては再びロードサイド商店街に出店する周囲の店舗との競合を起こしてしまう。そのため「いかにして既存の商店と差別化していくか」も大きな課題となるであろう。
なお、この商業床にはイオングループも核店舗として「再出店」することを検討しているという。
果たしてイオンの「リベンジ」は果たせるのであろうか。
現在の建物は解体される可能性が高いという
ショッピングセンターの進出を機にロードサイド店舗の集積が生まれることは多く、デフレ社会の昨今ではその集積が「ディスカウント競争」の表舞台となり、ショッピングセンターの核である大手スーパーが劣勢に追い込まれることは少なくない。近い将来には全国各地でこうした「撤退劇」が起きる可能性もあり、「ロードサイドを中心商店街とする」という上峰町の取り組みは「先進事例」となるかも知れない。
24年に亘って地域に親しまれた「これまでの町の中心」は間もなく消えてしまう。
今後、再開発で生まれる「新たな町の中心」の詳細はまだ分からないが、新たな施設が「サティ(イオン)が生んだ商店街」に屈することなく共存し、地域に更なる賑わいを生み出すような、そして長年に亘って「中心商店街の新たな核」として住民に親しまれ、全国の「先進事例」として後世に語り継がれるものとなることを期待したい。
<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
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