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入管法改正、水道法改正案。これらの改革を主導し、また同時にこれらの改革の「果実」を得られるのが未来投資会議や規制改革推進会議などの諮問会議であり、その背後にいる竹中平蔵氏である。お仲間企業に利益をもたらす政策を自ら決める竹中氏の問題に、多くの大手メディアは沈黙したままだ。
そんな中、2月22日発売の『月刊日本』3月号では、第四特集として「政商竹中平蔵の大罪」と題した特集を組んでいる。今回は同特集から、水道民営化に焦点を当てた森功氏の論考について転載、紹介したい。
月刊日本3月号
── 自治体が水道事業の運営を民間企業に委託する「コンセッション方式」の導入を可能にする改正水道法が、2018年12月に成立しました。これを主導したのが、人材派遣会社パソナ会長の竹中平蔵氏です。
森功氏(以下、森):竹中氏は、早い時期からコンセッションの旗を振ってきました。
2103年4月3日の「産業競争力会議」(現未来投資会議)のテーマ別会合で、竹中氏は「官業の民間開放としてのコンセッションを今までとは違うスケールで進める」と語っていました。
以来、水道や空港のコンセッションが加速していったのです。
竹中氏は、2014年5月19日の第5回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議では、少なくとも、
空港6件、下水道6件、有料道路1件、水道6件のコンセッション導入という数値目標を提案しています。
── これまで、竹中氏は労働分野の規制改革や外国人労働者の受け入れ規制の緩和などで、自ら会長を務めるパソナに利益誘導していると批判されてきました。公共サービスの民営化でも、竹中氏は関係企業に利益誘導しているように見えます。
森:2018年4月に、浜松市は全国で初めて下水道のコンセッションを採用しましたが、運営するのは
「浜松ウォーターシンフォニー」という会社です。ここには、世界の水を支配するフランス水メジャー、
ヴェオリア社とともに、
竹中氏が社外取締役を務めるオリックスも出資しています。
小泉政権時代に竹中氏とともに規制改革を主導したのが、
オリックスの宮内義彦氏です。コンセッションによって参入し、利益を得るのは
外資系企業や竹中氏のお仲間企業ばかりです。
コンセッション拡大に当たり、竹中氏の懐刀として動いたキーパースンがいます。2018年11月まで
菅義偉官房長官の補佐官を務めていた
福田隆之氏です。
福田氏は、まさに竹中氏と二人三脚になって、コンセッションを進めました。福田氏は、竹中氏の提案内容を裏付ける資料の作成を任されていました。産業競争力会議関連の議事録を見ると、竹中氏と福田氏が頻繁にコンビで登場しています。特に
2014年2月の「第2回産業競争力会議フォローアップ分科会」(立地競争力等)以降、毎回のように二人はそろって出席しています。
2016年1月28日には、
第1回のPPP/PFI推進タスクフォース全体会合が開催されましたが、その議長代理を務めることになったのが、福田氏です。彼は同月1日付で官房長官補佐官に就任し、その存在感を印象づけました。竹中氏の推薦があったと推測されます。竹中氏は、福田氏とともに水道コンセッションを本格化するための制度改革を進めました。
── 水道法改正案審議入り直前の2018年11月に、福田氏は官房長官補佐官を辞任しています。
森:福田氏とフランス水メジャーの癒着を示唆する怪文書が流れたからだと言われています。
その怪文書には、2017年6月に福田氏が行った欧州水道視察の日程概要が書かれています。そこには、ボルドーやカンヌが訪問地として出てきます。内閣府側は、「問題になるような接待は確認できていない」と述べていますが、「
視察と称して観光地に遊びに行ったようなものだ」との声も聞かれます。
内閣府としては、水道法改正案の審議を控えて、火種になりかねないということで、福田氏を避難させたということでしょう。
福田氏はヴェオリア社とべったりの関係とも言われていましたが、現在は同社と並ぶ
フランス水メジャーのスエズ社との関係が深まっているようです。福田氏の視察先の中心はスエズの施設だったようですし、スエズのアジアアドバイザーを務めているのが、福田氏が師と仰ぐコンサルタントの
舟橋信夫氏です。舟橋氏は、野村證券からゴールドマンサックスや豪マッコーリーグループなどを渡り歩いてきた国際金融マンです。
菅義偉官房長官のもとで、
竹中氏、福田氏、舟橋氏のラインでさまざまなコンセッション事業を進めてきたということです。新自由主義的な政策を進めたい菅官房長官は、竹中氏を最も頼りにしているようです。
── ヴェオリアの関係者が、内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に出向していた事実も明らかになりました。
森:内閣府は、「調査業務に従事しており、政策立案はしていない」として利害関係者には当たらないと説明していますが、
下水道事業を受注しているヴェオリアからの出向を受け入れること自体が不適切だと思います。
── 水道民営化は各国で試みられましたが、水道料金の高騰やサービスの低下をもたらすなど、ことごとく失敗し、再公営化されています。民営化された後、再公営化された事例は、2000年から14年の期間だけで、35カ国で180件ありました。ところが、水道法改正に当たって政府が調査した失敗事例はわずか3件でした。
森:民営化推進派は、「役人はコスト意識が低い。民間にやらせないとインセンティブが働かない」などと主張していますが、
民営化は魔法の杖ではありません。条件が整わなければ民営化してもうまくいくとは限りません。しかも、水道事業は黒字化が難しいのです。
水道を民営化すれば、競争原理が働いて料金が下がると喧伝されていますが、
世界の水メジャーは、ヴェオリアなど3社による寡占状態です。
寡占状態では競争は起こりません。水道民営化が進めば、日本でも水道料金の高騰を招く可能性があります。
また、日本の地方自治体は、水道事業における非常に高い技術とノウハウを蓄積してきました。しかし、一度民営化してしまえば、そうした
ノウハウが失われてしまいます。
── 小泉政権以来、公共サービスの民営化が推進されるようになりました。
森:小泉政権以前にも、公共サービスの提供において官民連携を重視する
PPP(Public Private Partnership)の考え方が取り入れられ、その一つとして民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や維持管理、運営をする
PFI(Private Finance Initiative)が重視されるようになってはいました。1999年にはPFI法が施行されています。
ただ、このPFIを活用して公共サービスの民営化が本格化するのは、
小泉政権以降です。竹中氏は、小泉政権で経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、内閣府特命担当大臣などを務め、規制改革と民営化を推進しました。一方、福田氏は2002年3月に早稲田大学教育学部を卒業し、野村総合研究所に入社、公共事業の政策を研究するようになりました。福田氏の卒論は公共事業の民営化がテーマでした。福田氏は野村総研入社後まもなく、竹中氏と出会ったのだと思います。
福田氏は、大学時代にNPO法人「政策過程研究機構」を設立、代表に就任していました。また、
大学時代から自民党青年局の学生部に出入りし、早大の先輩議員の選挙を手伝っています。もともと政治や行政への関心が旺盛だったのでしょう。
実は、福田氏は2009年に誕生した
民主党政権でもコンセッションを推進していました。国土交通大臣に就任した
前原誠司氏は、「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げ、公共事業の削減を進めようとしていました。
竹中氏と関係の深い
パソナグループの南部靖之代表から支援を受けていた
前原氏は、新自由主義的な考え方を持っていました。竹中氏の働きかけで、国土交通省の中に成長戦略会議が設置され、2009年12月に開かれた第5回会議から福田氏も参加するようになったのです。以来、福田氏は成長戦略会議だけでなく、内閣府のPFI推進委員会にも参加するようになります。つまり、福田氏は10年近く前から、公共サービスの民営化を主導してきたということです。
福田氏は、2012年からは
新日本有限責任監査法人のインフラPPP支援室長としてコンセッション関連アドバイザリー業務を統括する立場になりました。
前原氏が打ち出した空港民営化の方針に沿って、その後2015年末には、
オリックスとフランスのヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資して「
関西エアポート」が設立され、翌年新関空国際空港の運営権がそこに移管されました。
新日本有限責任監査法人は、この関空コンセッションのアドバイザー企業となっています。
── 空港運営の責任の所在が曖昧になった結果、様々な弊害も生まれています。
森:例えば2018年9月には、関西地方を襲った台風21号の影響で、約7800人の旅客らが関空内で孤立する事態に陥りましたが、関空エアポート内の主導権争いで、混乱に拍車がかかったと言われています。
── 水道法だけではなく、入管法改正、漁業法改正など、諮問会議の方針に沿った制度改革が加速しています。
森:かつては、例えば労働法制の改革であれば、労働側を含めた多様な立場の専門家が政府の委員会や私的諮問会議に出席し、その意見を聞いて議論が進められていました。ところが現在、国の形を変える大きな制度改革について、
政権が都合のいい専門家の議員を選び、その諮問会議が方針を決め、それが閣議決定され、法案化されるという流れです。
── 任期満了となる経済財政諮問会議民間議員2人に代わり、竹中氏に近い、慶応大大学院の竹森俊平教授と東大大学院の柳川範之教授が新たに起用されることになりました。
森:第二次安倍政権で、竹中氏は経済財政諮問会議民間議員には就けなかったものの、
産業競争力会議(現未来投資会議)の民間議員となって、規制改革を主導しました。経済財政諮問会議にも自分に近い人物を送り込むことで、さらに規制改革を加速させる狙いなのでしょう。
諮問会議で方針が決まってしまえば、野党に力がないために、国会では十分な議論を経ることなく法案が通過してしまいます。こうした状況を変えなければなりません。
政府が出す法案の問題点を十分に指摘しないマスメディアの責任も重いと思います。
(聞き手・構成 坪内隆彦)
もりいさお●1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身