広域化やダウンサイジングの他に、大切なのは「住民参画」だ。
岩手県矢巾町は丁寧な住民合意で水道料金値上げの理解を得ることに成功
国民の多くには「水は安い」という固定観念がある。だが、岩手県矢巾町は丁寧に住民合意を得て、水道料金値上げに成功した好例だ。山本勝美上下水道課課長は水道の安定供給には値上げ不可避と予測して、’08年に「水道サポーター」制度を開始した。公募で集まった住民有志のサポーターと職員がワークショップを3年続け、さらに無作為抽出した住民とも意見交換。住民側から「水道維持のためには水道料金値上げは必要」との意見を得て、「水道管は今後70年サイクルで更新する」との住民合意を得た。これにより、町は’16年に水道料金を値上げ。住民の間に「自分たちの水」という意識が浸透したのだ。
最後に、民間企業による水道事業の例も紹介しよう。神奈川県の箱根地区では「箱根水道パートナーズ」という民間企業が水道事業を担っている。神奈川県企業庁が’14年から5年間業務委託し、施設の運転、維持管理、料金収納、更新工事、危機管理対応、工事設計・施工・検査など、いってみれば水道事業のすべてを行っている。
だが委託である以上、水道料金は企業庁直営の12市6町と同一だ。同社に「同じ水道料金でペイしているのか」を尋ねると「何の問題もない」という。同社には企業庁職員が4人配置され、双方で業務内容を共有し、運営がガラス張りなのも大きな特徴だ。同社は受託契約を延長する予定だ。
今後大切なのは民営化に反対すること以上に「健全な水道事業のビジョンを描くこと」だ。
先に触れた群馬東部水道企業団の給水人口は44万人で、外資がターゲットにする可能性もある。だが、同企業団の篠木達哉企画課参事は「民の力は借りることもあっても、運営はずっと私たちがやります」と明言する。このような健全な発想のプロ人材が「水道代爆上げ」を防いでくれることを祈る。
橋本淳司氏
【橋本淳司氏】
’67年、群馬県生まれ。水ジャーナリストとして水問題やその解決方法を調査、発信。アクアスフィア・水教育研究所代表。著書に『
67億人の水』など
取材・文/樫田秀樹
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