地元住民の間に漂う「腑に落ちない」感覚。石垣島陸自配備の奇々怪々<菅野完>

土地買収や世論誘導に見え隠れする宗教団体

 陸自が基地工事を進めるのは、石垣島の地理的中心部の平得地区。この辺りは一面の山林だ。前出のように防衛省は周辺の「市有地」に目をつけたということになる。確かに土地の所有者が石垣市であれば地権者と揉めることは少ないだろう。だが実際には、地権者は石垣市だけではない。  住民投票が市議会に諮られ実施が否決されたのは2月1日のこと。しかしその前日の1月31日、なぜか防衛省は石垣市との用地交渉さえ終えていないにもかかわらず、基地予定地東端の民有地を真っ先に買収しているのだ(登記簿写真参照)。所有者名義を見ると、有限会社ジュ・マール楽園となっている。 防衛省が買収した土地の登記簿「ジュ・マール社の社長は石垣市議の友寄永三氏です。友寄氏は自民党の会派に属していますが、選挙では新興宗教・幸福の科学の政治団体である幸福実現党の推薦を受けたと噂される人物です。」(市政関係者)。  なるほど、友寄氏のFacebookページを見ると「米軍は宇宙人と組んでいる」など奇妙な発言が目立つ。彼が幸福の科学関係者であるとの話が出るのも頷ける。となると、防衛省は、基地予定地最大の地権者である石垣市との交渉を終える前に、なぜか、石垣市議会議員を務める幸福の科学関係者だと言われる人物が所有する土地だけを先に買収したことになる。
友寄氏のfacebook

友寄氏のfacebook

 幸福の科学関係者が陸自基地配備で前のめりになる姿は他でも観察された。  2月7日、防衛省は地元住民説明会を開催した。しかし、大半の住民は賛成・反対の立場を問わずボイコット。防衛省は120席近い椅子を用意したが、集まったのはわずか13名にすぎない。
地元住民説明会の様子

地元住民説明会の様子

 「会場の左側に座ってるの、あれみんな幸福の科学の信者ですよ」と地元紙記者が耳打ちしてくれた。つまり13名の参加者のうち大半が幸福の科学信者だというのだ。そのうちの一人が、質疑応答の時間になり挙手の上、防衛省担当者にこう投げかけた。 「いま、工期について説明を受けたが、前倒しにしてでも、どんどん前に進めてもらいたい」  地元紙関係者がこう解説する。 「いま発言したのは、基地予定地近くで、Yという工房を営むT氏。バリバリの幸福の科学信者です」  大型工事の住民説明会で「前倒しにしてでも、工事を早くやってもらいたい」との発言が出るのは異例ではある。また、幸福の科学関係者の発言であることも考慮すべきではあろう。しかし、この発言が住民説明会での発言であるのも事実ではある。そして大半の住民が説明会をボイコットしたため、目ぼしい住民側発言がなかったのも事実ではある。翌日の地元紙が住民説明会を報道する際、足並みをそろえて「住民側からは、工期の前倒しを望む声もあがった」との一文を添えていたのも無理はなかろう。だがこれは傍目から見れば、結果として、幸福の科学による世論誘導になっているとしか言いようがない。  このように、石垣島の陸上自衛隊基地配備には、土地買収や世論誘導に、幸福の科学の姿が見え隠れし続けているのだ。  陸自は本年3月の着工を期しているという。しかし、陸自受け入れ賛成派でさえも「具体的な説明はなかった」という中での着工は、将来に禍根を残すことになるだろう。すでに地元の一部では、特定の関係者ばかりが利得を得ている現状について怨嗟の声さえ上がっているのも事実だ。  離島防衛は確かに重要ではある。しかし、自衛隊が守るべき地元住民の間に怨嗟と禍根を残す防衛力強化に、どれほどの意義があるというのか。防衛省の自省が求められる。 <取材・文/菅野完> すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。現在、週刊SPA!にて巻頭コラム「なんでこんなにアホなのか?」好評連載中。また、メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(https://sugano.shop)も注目されている
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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