家族総出で民泊を経営することで、訪れたプラスの効果とは?~金欠フリーライター、民泊をはじめる(8)~

いずれは家族連れ旅行のハードルを下げていきたい

 ユイには二人の子供がいる。民泊は、この二人にどのような影響を与えているのか。 「上の子は、英語教室に通い始めましたね。シャイなので、自分から相手の中に入っていくということはないのですが、チェックインのゲストを最寄り駅に迎えに行く時は一緒に来たがりますね。下の子はまだ小さくて何もわかっていないのですが、あの子の存在自体が“ああ、子供を連れて行ってもいいんだ”と子連れの家族を呼ぶきっかけになっているのかなと思いますね。子供の存在がゲストと私たちの距離をぐっと縮めてくれます」(ユイ) 「民泊をやっていると、生まれてすぐの赤ちゃんを連れている家族がいたり、反対に子供は国に置いたままで夫婦だけで来ている人もいますよね。そういうのを見て、“ああ、こういう旅行があってもいいんだ”と価値観が変わりましたね。日本にも、もしこういう思考の柔軟性みたいなものがあったら、皆さんもっと子育ても旅行も気楽になると思いません?」(タエコ)  筆者宅でいうと、最年少ゲストはまだ首も座っていない生後二か月の女の子だった。当然一人旅のはずがない。父親はルクセンブルク出身のビジネスマン、母親はオランダの大学教授だった。そこでこの母親に「待機児童」の問題を話し、オランダはどうか聞いた。  なんでも、オランダの場合は生後三か月から職場復帰することになっており、大学なら大学に託児所が完備されているという。 「でも私はこの二か月間文字通り四六時中この子と一緒にいたから、逆に離れるのが寂しくなるわね」  筆者に言わせれば、それは託児所が完璧に用意されていて、職場復帰の不安がないから言える余裕の言葉である。こういうことも、民泊を行って実際にゲストと顔を合わせて話してみないとわからないことだ。日本もいつかこうなることを切に願う次第である。 「印象的だったのがマカオからコミケのためにやってきた四人組です。そのうち一人が“どうしても牛タンを食べたい”と言って、コミケが終わった後に新幹線へ飛び乗り、仙台まで行って牛タンだけ食べてそのまま新幹線で戻ってきたということがありましたね。ああ、こういう生き方をしてもいいんだと。今まで勝手に自分を縛っていた固定観念とかがどんどんなくなっていきますよね」(ユイ)  では、この一家の英語力はどれくらいなのか。  「私たち、全員英語なんてまともに話せませんよ。でも、それぞれができることをやっていればなんとかなるんですよ。たとえば、トルコ人老夫婦から“飛行機が遅いからしばらく荷物を預かってもらえないか”と言われました。取りに戻るのも大変だろうから主人と車で渋谷まで持って行きハチ公の前で渡したら、そのトルコ人と六十過ぎの日本の男がね、抱き合って別れを惜しむんですよ。そんな体験が日本のほかのどこでできるのか、聞いてみたいくらいですよ」(タエコ)  「私の妹も英語が得意ではありませんが、得意な書道でゲストにおもてなしをしています。この写真のゲストのように、和室で筆を持つ書道体験はとても喜んでくれます」(ユイ)  家族で民泊をやっていると、全てが丸く収まる。比喩でも何でもなく、本当の話である。 「あのゲストはここがよかった、あそこがよかった、とその話ばかりで盛り上がるからケンカする理由がない」(ユイ)のだ。奇しくも、前回ご登場いただいたシングルマザーと同じ結論になっている。ゲストに喜んでもらう、という共通の目標を目指し始めるので、揉め事が一切なくなるのだ。  次回は世田谷区において彼らがいかにして民泊を守ろうとしているか、その行政とのせめぎあいについて詳述していきたい。 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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