現在のやり方を続ける限り、待ち受けるのはディストピア<片山杜秀氏>

「棄民」を進める安倍内閣

―― 平成は「平らかに成る」と言いながらも、実際には多くの問題が生じました。その一つが沖縄の米軍基地問題です。沖縄では辺野古新基地建設をめぐって反発が強くなっており、日本から急速に乖離しつつあります。まさに国家統合の危機と言えます。 片山:現在沖縄に対して行われていることは、大げさに言えば「棄民」です。沖縄は選挙を通じて何度も米軍基地建設反対の意思を示してきましたが、日本政府は誰が沖縄県知事になろうがおかまいなしということで、ついに辺野古に土砂まで投入してしまいました。  報道によれば、辺野古の地盤は非常に軟弱で、工事が難しいと言われています。そうであれば、政治的メンツはともかくとして、これをきっかけに辺野古基地の方針を仕切り直すこともできたはずです。総理レベルが決断すれば、決して難しいことではない。しかし、安倍内閣にはそうした素振りは見られませんでした。彼らからは沖縄は同じ日本だという意識が全く感じられません。  同じことが北海道にも言えます。たとえば、いまJR北海道は厳しい経営状況に置かれています。北海道では他の地域同様、過疎化や高齢化が進んでいるため、JR北海道の採算がとれなくなるのは無理もありません。  しかしだからと言って、JR北海道を潰すわけにはいきません。もし北海道の鉄道路線がさらに大幅に縮小し、高齢のために自動車の運転が難しい人が増えれば、北海道での社会生活は地域によっては難しくなります。かつて北海道を蔑視し、北海道の道路は車よりも熊が通るなどと言われたことがありますが、現実にそのような状況が生まれてしまう恐れもあります。  こうした事態を避けるためには、経済効率とは別の観点が必要です。JR北海道に国家予算を投入するとか、他の儲かっているJRからお金を回すことを考えるべきです。しかし、国鉄民営化の理念に反するなどとして、こうした声は大きくなっていません。北海道も大事な日本であり、そこで日本人が暮らしているという意識が希薄になっているのです。  また、北海道について考える際に忘れてはならないのが、北方領土問題です。いま北方領土交渉をめぐって様々な観測がなされていますが、安倍内閣はかなり大胆な政策変更に踏み切りました。しかし、歴史的経緯を忘れている人が多いからか、安倍内閣の方針を批判している人はあまり多くありません。  沖縄と北海道は明治維新後に改めて日本に統合された地域です。日本にとっては一番フラジャイルな場所と言えます。しかも、沖縄はアメリカと中国、北海道はロシアとの関係が深く、外交的にも軋轢を生みやすいところです。平成はこうした地域をめぐる綻びが目に見える形になった時代だったと言えます。
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ヴィジョンなき統治の先はディストピア
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月刊日本2019年2月号

特集1【冒頭解散を撃て】
特集2【トランプに捻じ曲げられた防衛大綱】
特集3【平成の光と影】
新春特別対談【世襲政治を打破する】
新春特別寄稿【女川原発を津波被害から救った男 平井弥之助に学ぶ】
新春特別レポート【子宮頸がんワクチン、日本撤退へ】

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