宮古馬の虐待問題で揺れる島に生まれた「小さな希望」

授乳中の仔馬

荷川取牧場で授乳中の仔馬。人間との信頼関係も強く、よく慣れている

 年末から年始に欠けて、衝撃的な馬の虐待写真で問題になった沖縄県の天然記念物・宮古馬。『週刊SPA!』による報道がきっかけで、問題となっていた2名の飼育者からは自主返納となり、生き残った4頭の馬たちもどうにか救出された。もっとも市が管理している3頭については受け入れ先が未定で、いまだ予断を許さない。  さらに気になるのは、他の飼育現場はどうなっているのだろうかということだ。今回は、残りの5軒の飼育現場のレポートをお届けしたい。

問題となった2軒以外は、宮古馬をどのように飼っているのか

のびのびと放牧

のびのびと宮古馬を放牧している、荷川取牧場

 2軒が自主返納した現在、島内で宮古馬を飼育しているのは5軒となった。そのなかで、荷川取牧場は島内で最多の頭数を飼育してきた(問題となったN牧場とは別の牧場)。牧場主の荷川取明弘さんは馬が好きで、小さい時から馬との暮らしを夢見ていたという。  念願だった馬との日々が始まって15年。他の飼育者が兼業で馬を飼っているのに対して、荷川取さんは他の仕事はせずに馬の飼育だけをしている。引き馬(スタッフが馬の手綱を引き、お客を馬の背中に乗せて遊覧する)などの営業を市から認められている、ただ1軒の飼育者だ。  現在、宮古馬全41頭のうち27頭をこの牧場で預かっている。毎年、ここでは数頭の元気な仔馬が自然交配で生まれていて、群れで半放牧された姿を見ることができる。  60代後半の荷川取さん夫婦は、1日のほとんどの時間を馬のために使っている。いちばん大きな放牧場でも10頭ほどで手いっぱいなので、数か所に分けて飼育している。そのすべての放牧場をまわり、エサやりとボロ(糞)取り、厩舎掃除を朝夕2回。1日の休みもなく働いている。  飼育員を雇う余裕はないが、ボランティアたちが無給で手伝ってくれていて、それで何とか宮古馬を飼い続けていられるというのが現状だ。「引き馬」で得られる対価もあるが、それほど需要がないので年間30万円ほどにしかならないという。
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心ある牧場主たちの「思い」
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