いいことだらけの民泊の良さはまだ終わっていない。日本で大きな問題の一つとなっているのが増えるばかりの空き家問題だが、安田の実家はまさにこの問題の当事者だった。
「私の実家は瀬戸内にあるのですが、六年間空き家でした。それで問い合わせてみると壊すのにも一千万円かかると言われました。でもそこは祖父母の家ですから誰も責任をとろうとはしないんですよ。そしてうちの娘二人もこの家の相続人の中に入るわけですよ。私が何とかしてあげなければ娘たちに負の遺産を背負わせることになってしまうわけですよ。それで私が不要物を全部処分して、リフォーム代を出しましたけど全部で250万円くらいだったでしょうか。150坪の土地に平屋で100坪の家が建っているのですが、それを民泊に出しました。そうやって実家を維持できていますね」
以前触れた友人のデービッド・アトキンソンについて衝撃だったことがある。
彼は京都に家を一軒所有しており、筆者が一度訪れたことがある。
最寄り駅が二条城駅でそこから徒歩で5~6分の場所だったが、筆者が愕然としたのは二条城という最も日本的・伝統的であるべき地域にもかかわらず、駅の出口からアトキンソン邸までの間に日本の伝統建築の家屋が一軒もないのだ。全部味気も素っ気もない商業ビルか居住用マンションばかりである。
皮肉にも、あの近辺で日本の伝統建築が残っているのは、唯一アトキンソン邸だけだ。米軍でさえ空爆しなかった京都を、日本人が破壊しているという現実がある。唯一守っているのが英国人という強烈な皮肉がそこにある。
もちろん、伝統ある建築を守ろうとすればお金がかかる。空き家のままにしていれば維持費と固定資産税だけがかかる。
また、2018年に、愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から脱走した受刑者の男が、潜伏していた広島県尾道市の向島にある空き家の屋根裏に隠れていたという事件があったように、治安の悪化にも繋がる。
常々強調している通り、筆者は「投資用無人民泊」には賛成していない。だが、安田氏は近くに住む親戚に管理を依頼して、庭なども作ってもらっているように、きちんとしたホスト・管理者がいて、こういう古民家・伝統建築を民泊の形で維持・活用することにはまったく異論はない。むしろ反対する者は日本の伝統破壊者ですらある。
このようにして実家を再生させて、民泊として活用することは、地方再生に一役買うと同時に、娘たちに負の遺産を引き継がせることを食い止めることにすらなるのだ。
次回はさらに、英語がほとんどわからない一家が民泊を続けている事例を紹介したい。
【タカ大丸】
ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『
ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「
ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『
貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『
ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「
ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『
貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。