反共主義から国家社会主義まで。独自の進化を遂げる東欧ブラックメタル

 白塗りメイクで反キリスト教的な歌詞をがなり立てる、特異な音楽性が世界中のコアな音楽ファンを惹きつけてやまないブラックメタル。一般の音楽ファンにはまるで馴染みのないジャンルだが、そのなかでも東欧各国のものに限るとなると、さらにリスナーの数は限られるだろう。

未承認国家にも存在するブラックメタル

沿ドニエストル共和国のレーニン像

 一般人にとっては単なる騒音にしか聴こえないであろうブラックメタル。一見しただけではおどろおどろしい雰囲気しか目に入らないし、一聴しただけではうるさすぎていったい何を歌っているのかわからないという人も多いはずだ。  しかし、読者の皆さんには、ぜひブラックメタルは単なる“ゲテモノ”ではなく、歴史や宗教、政治に関連した深いメッセージが込められているということを知ってほしい。  そのような思いが嵩じて自ら東欧・ポーランドに移住までしてしまったのが、『東欧ブラックメタルガイドブック2 ウクライナ・ベラルーシ・バルト・バルカンの暗黒音楽』(パブリブ)の著者である岡田早由氏だ。まずはブラックメタルとはいったいどのような音楽なのか、解説していただいた。 「ブラックメタルは、ヘヴィメタル音楽のサブジャンルで、基本的には『コープスペイント』と呼ばれる死体をイメージした白塗りメイクを施し、悪魔崇拝的な歌詞を金切り声で歌います。しかし、なかにはメイクをしないバンドや、悪魔崇拝ではなく、自然崇拝や土着宗教、愛国心、絶望、死などについて歌うバンドもいます」  強烈なビジュアルイメージが特徴的なジャンルだが、今ではノーメイクにネルシャツ、Gパンといった“フツー”の服装で演奏するバンドも出現している。「コープスペイント」は重要なアイデンティティのひとつではあるが、決してメイクに囚われているわけではないのだ。  北欧にルーツを持つブラックメタルだが、現在では世界中にバンドが存在している。岡田氏が熱心に研究している東欧では、次のような特徴が見られるという。 「東欧のブラックメタルは、ペイガン・ブラックメタルという、異教(ペイガニズム)をテーマにしたバンドが多い傾向にあります。また、私が住んでいるポーランドもそうですが、歴史的に侵略されることが多く、不遇の歴史を経た東欧の国々は、もう二度と他の国家に自国は渡すものかという想いが強いのか、ナショナリズムを感じさせるNSBM(国家社会主義ブラックメタル)も多いです」  こうしたメッセージを理解するためには、背景にある歴史を学ぶことはもちろん、現地の空気を直に感じることも重要となってくる。岡田氏は‘18年にはベラルーシとモルドバ、さらに二度目となるウクライナを訪問したという。 「ベラルーシは“ヨーロッパ最後の独裁国家”とも呼ばれており、不安なところもありましたが、実際に行ってみるととても旅行しやすい国でした。東欧にありがちな廃墟が少なく、道路もデコボコしていません。また、まるでソ連のSF映画にでも出てきそうな、シュールで迫力のあるスターリン建築も見られます」  また、旧ソ連の構成国、モルドバもとてものどかな国だったそう。 「首都のキシナウも人が少なくのんびりしています。また、国際的にはモルドバの一部とされてはいるものの、モルドバからの独立を宣言している未承認国家沿ドニエストルも独特の雰囲気でした。なんだかんだ一番印象に残っているのは沿ドニエストル共和国の首都ティラスポリかもしれません。いまだにソ連への憧憬を持ち続けている国民も多いようで、祝日でもないのに街中に自国とロシアの旗が掲げられていました」  街中で垣間見られる過去の歴史が、ブラックメタルバンドたちの音楽性に影響を及ぼしていることは間違いないだろう。たとえブラックメタルファンでなくとも、こういった文化を見に旅をしてみても面白いかもしれない。
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バルト三国でも音楽性に違いが
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