ブラックメタルを通じて、東欧の政情や歴史を知ることができる!?

東欧ファンで人気の『ウクライナに栄光を!』

 これぐらいなら聴けるかも……という読者の方は、続いて中級者向けのバンドにもチャレンジしていただきたい。 「同じウクライナのDub Bukのファーストアルバム、『Іду на ви!』では『Слава Україні!(ウクライナに栄光を!)』という曲が、東欧メタラーの間でかなり人気です。音質も演奏もまずまずなのですが、初期衝動を感じさせるような少しスラッシュ感のあるメロディーとがむしゃらなボーカル、ウクライナへの愛を感じさせる歌詞など、魅力的なポイントが詰まっています。キーボードも使用されており、シンフォニック・ブラックメタルともカテゴライズできるアルバムです」  これでもまだ刺激が足りないという上級者の方には、モルドバの一部にある未承認国家沿ドニエストル共和国のブラックメタルバンドにチャレンジしていただきたい。 「Red Star Kommandoの『Stupor Mundi / Red Star Kommando』は、さすがドニエストル共和国出身のバンドだけあって、共産主義やマルクス主義について歌っています。音質は非常に悪く、何を演奏しているのかよくわからないくらいのプリミティブ・ブラックメタル。ソ連への回帰を願うこの国ならではのテーマですが、本当に沿ドニエストル共和国の出身かどうかは定かではありません……」 『レッド・スター・コマンド』と、まさに直球な曲名がインパクト大だ。  今回紹介したバンドはほんの氷山の一角。よりドップリとブラックメタルに浸ってみたいという人は『東欧ブラックメタルガイドブック』を参考に、さらなる凶悪バンドを探してみるといいだろう。 「ブラックメタルは、今となっては本来のイメージ通りの悪魔崇拝に限らず、様々なテーマを取り扱っており、他ジャンルを取り込んだユニークなバンドもたくさん出てきています。国によってそのバンドのカラーも異なり、悲しくもたくましい歴史を背負った東欧には、ほかのエリアには出せない魅力を感じます。ブラックメタルを通して、その国の背景などを調べるのも面白く、それが醍醐味のひとつかもしれません」  独自の進化を遂げた東欧のブラックメタルバンドたち。新たな歴史や政情によって、今後もその勢いは増していきそうだ。 <取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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