──日本は返還される二島に在日米軍を置かない意向をロシアに示したと報じられています。しかし、アメリカの同意を得ることはできるのでしょうか。
菅沼:現状では、
100%無理です。こうした例外をアメリカに認めさせれば、尖閣諸島も例外だと言われかねません。そもそも、
アメリカに対してそれだけのことが言えるならば、沖縄の在日米軍についても日本はアメリカにもっと主張できるはずです。残念ながら、今の日本にアメリカを説得するだけの外交力はありません。領土問題解決の早道は、日本がアメリカから自立することです。
返還する二島に米軍基地が置かれる可能性があるならば、ロシアは二島返還にも応じません。現在、米ロ関係は非常に悪化しています。なおさら、ロシアにとっては、対米核抑止力の確保は死活的な問題なのです。
千島列島は、ロシアの対米核抑止力の確保に非常に重要です。ロシアは、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載したボレイ級原子力潜水艦(SSBN)をオホーツク海に配備しているのです。色丹島にはロシアの国境警備隊の大型基地があり、数百人の部隊が展開しているとも言われています。そこにアメリカの通信傍受基地などが置かれるようなことになれば、択捉島のロシア軍基地の動きなどが手に取るように把握されてしまいます。
──対日貿易赤字の解消が進まないまま、日本が防衛負担を拡大できない場合、トランプ政権が在日米軍の撤退を検討するという見方もあります。トランプ大統領が、日本が主体的にロシアと交渉することを容認する可能性はないのでしょうか。
菅沼:在日米軍撤退となれば、事態は変わってくるでしょう。しかし、当面そのような状況にはなりません。
最悪のシナリオは、安倍政権が平和条約締結を急ぎ、歯舞、色丹二島も返還されないまま、平和条約を結ぶ結果に終わることです。
プーチン大統領は、2018年9月にウラジオストックで行われた日露首脳会談の際、「前提条件なしの平和条約の締結」を提案しています。しかも、プーチン大統領は、「日ソ共同宣言には、『ソ連が2つの島を引き渡す用意がある』ということが述べられているだけで、それらがどのような根拠により、
どちらの主権に基づくかなどは述べられていない」と述べています。
さらに、プーチン大統領には、いま平和条約締結を急ぐ理由はどこにもありません。日本とロシアは、日露戦争以来、シベリア出兵、ノモンハン事件、第二次世界大戦と、4度にわたって戦争しました。ロシアの側から見れば、いずれも日本の侵略によるものであり、ロシア人にとって日本は侵略国家なのです。
ロシアの国内世論、対日認識をもっと理解する必要があります。最近、ロシアのレバダ・センターが行った調査では、「日露間で平和条約を結び、経済協力を発展させるために、クリル諸島(千島列島や北方領土)の幾つかの島を引き渡すべきか」との問いに対して、74%の人が反対しています。賛成した人はわずか17%でした。
プーチン大統領が国内世論の反対を押し切って、日本と妥協することはないでしょう。安倍政権が平和条約締結を急げば、最悪の事態を招くことになります。
(聞き手・構成 坪内隆彦)
提供元/月刊日本編集部
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