独裁強まるベネズエラで唯一政権批判していた新聞が廃刊。今後は電子版で「戦い続ける」と宣言

白石和幸
El Nacional紙版の最終号

紙版の最終号を報じる「El Nacional」。見出しには、「El Nacional es un guerrero y seguirá dando batalla(El Nacionalは戦士だ。戦い続ける)」の文字が

 独裁色を強めるベネズエラのマドゥロ大統領。この国で政府を批判して健闘していた新聞『El Nacional』が、新聞にする紙が手に入らず紙面での発行を12月14日(金曜日)をもって廃刊することになった。その最後の紙面のトップの見出しは<「エル・ナシオナルは戦士だ。戦い続ける」>という文字が踊っていた。

他国の新聞が紙を援助していたが……

 隣国コロンビアの代表紙のひとつ『El ESPECTADOR』の同日14日付けの電子版は「紙不足、政治的圧力、経済荒廃によって、75年の歴史を持つベネズエラの代表紙が市中から姿を消す。同紙の初版は1943年8月3日だった」と記事本文で説明している。更に、同紙はエル・ナシオナルの2014年の各週末の発行部数は25万部であったが、現在は僅か5000部の発行に留まっているとも報じている。  エル・ナシオナルがマドゥロという独裁者と戦う唯一残っている全国版の紙面だということで、同紙の紙不足を助ける意味でアルゼンチンから「La Nación」、ブラジルは「 O Globo」、チリから「 El Mercurio」がそれぞれ発行できるための紙を無償あるいは貸すという形でエル・ナシオナルに提供したりしていたことにも同記事で言及している。  しかし、発行に必要な新聞の紙をマドゥロが大統領になった2013年から政府がその輸入した紙の配給を管理するようになってから、事態はいっそう深刻になった。政府に批判的な新聞社には紙の入手を故意に困難にさせていたのである。しかも、仮に輸入したくても、外貨を手に入れるのも容易ではないという事情下にもあった。  発行責任者のミゲル・エンリケ・オテロは、身の危険を感じてスペインのマドリードに亡命しているが、2018年も同紙を存続し続けたいとしていた。オテロは「我々が他社と比較して長く存続できたのもラテンアメリカの同業他社からの協力があったからだ」とも語っている。

反骨の新聞、その意志は絶えず

 11月から月曜と金曜の発行は止めていたという。更に同氏は「金曜日(11月14日)が最後の発行になるが、この独裁政治体制が崩壊したらまた発行する予定だ。この体制は長く続くとは思わない」とも述べた。(参照:「Mediterraneo digital」)  政治経済の担当チーフで28年間勤務して来たサイラ・アレナスは「長年勤務していると、私の第二の家庭になっている」と語っている。同じく政治担当のアスセンシオン・レイイェスは「編集部はみんな悲しんでいる。長年勤務していると、この閉鎖は一時的なものであることを望んでいる。私にとって影響は大きい。ここは私にとって学校であり、同時にこの業界における人的認識も深めることができた。この閉鎖は言論の自由の最も大きな窓を閉めることになるという意味に受け取れる」と述べている。  僅か2年勤務のリポーターラファエル・レオンは「ショックだ。ノスタルジーでいっぱいだ。エル・ナシオナルは伝統紙で、しかも紙面による唯一の独立したメディアだった。唯一、残っているのは戦うことだ。ベネズエラ社会が我々を必要としている」と述べた。(参照:「RCNラジオ」)  最盛期には1500人のスタッフを抱えていたという。発行ページ数が一番多い時は新聞と一緒に付録として加わる雑誌を含め72ページにまで及んだそうだ。それが現在はスタッフは280人で、僅か16ページに収められている。(参照:「Newsweek Espanol」)

新聞廃刊が相次ぐベネズエラ

 2013年から115ある新聞の内、2018年5月末までに80紙が閉鎖している。例えば、ベネズエラで最も古い、114年間存在し続けたエル・イムプルソ・デ・バルキシメト(El Impulso de Barquisimeto)は2月10日に閉鎖している。そして多くの新聞が週刊紙に変身していった。或いは電子紙に変身である。(参照:「Actualy.es」)  新聞社の閉鎖に伴って、雇用の喪失を生むことになる。電子紙に転身しても、従業員の削減から逃れることはできない。エル・ナシオナルの場合は280人の従業員の中で45人が電子紙で勤務することになっているそうだが、他のスタッフは解雇されることになる。(参照:「Ciber Cuba」)  現在も発行を続けている35社は、その紙面のサイズを縮小し、ページ数そして発行部数も減らして紙の不足に対応している。(参照:「Actualy.es」)  その中には新聞社を売却して政府に都合の良い報道をするようにして存続を確保するという場合もある。<ウルティマス・ノティシアス(Ultimas Noticias)とエル・ウニベルサル(El Universal)>がそれである。(参照:「El Sol de Mexico」)  テレビとラジオも同様にマドゥロ政府から干渉を受けている。特に、危機に対する情報の報道を政府は邪魔しようとしているというのだ。2007年のことであるが、ベネズエラで最大のテレビ局だったRCTVが閉鎖を余儀なくさせられたという出来事があった。(参照:「Newsweek Espanol」)  電子版として存続する反骨の新聞「El Nacional」の今後の健闘を祈りたい。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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