特別報告者は「国連のほうから来た人」ではない。国連人権理事会「特別報告者」の名誉を回復する

井田 真人

筆者の私見 ~ 特別報告者トゥンジャク氏の本当の狙いは何か?

 最後に、若干の私見を交えながら、特別報告者トゥンジャク氏の“狙い”について考えてみたい。  筆者は、トゥンジャク氏の本当の狙いは「年間1mSv以下」を日本政府に強制することではなく、日本政府の硬直した政策、すなわち、原発事故から7年9か月も経った現在でも「年間20mSv以下」を維持するという野蛮な帰還政策に再び釘を刺し(国連人権理事会は昨年にも同様の勧告を行っているが、日本政府はそれを完全に無視した)、この大問題に再度、日本人の注目を集めることにある、と見ている。  彼の発した苦言を見れば明らかなように、彼は「福島に住んでいる人」ではなく、「強制避難者および自主避難者」、すなわち、現在、最もつらい思いをしている人たちを念頭に置いて発言している。そして、そのような発言が「福島に住んでいる人」の心をかき乱す可能性も、自分自身が批判に晒される可能性すらも、おそらくは覚悟している。そこまでしてでも、彼は「年間20mSv以下」問題に再度、日本人の注目を集めようとしている。それこそが、彼の狙いなのではないだろうか。  ここで、よく考えてみてほしい。このような時に批判されるべきは、本当にトゥンジャク氏なのだろうか? 彼を批判する人々は、どうして日本政府の福島帰還政策を批判しないのだろうか? それどころか、勢い、避難者たちの側を批判しようとする人物までもが現れるのは、いったい何故なのだろうか?  よく思い出してほしい。避難者は元来、福島県の全人口の中では少数派であり、声も小さくなりがちである(現在の避難者数は、事故前の福島県の人口のおよそ2%に相当する。ただし、人数で見れば43,000人超にもなり、けっして少数とは言えない。参照:福島復興ステーション)。そのような弱い存在の声をいかにして形にするかは、落ち着いて福島県に住んでいる人こそが考えるべきことなのではないだろうか。  原発事故の風化が強く懸念される昨今、このような諸々のことに再び思いを巡らす機会を与えてくれた国連「特別報告者」バスクト・トゥンジャク氏に、筆者は深く感謝している。 <文:井田 真人 Twitter ID:@miakiza20100906> いだ まさと●2017年4月に日本原子力研究開発機構J-PARCセンター(研究副主幹)を自主退職し、フリーに。J-PARCセンター在職中は、陽子加速器を利用した大強度中性子源の研究開発に携わる。専門はシミュレーション物理学、流体力学、超音波医工学、中性子源施設開発、原子力工学。
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