写真/スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト
週刊SPA!の巻頭コラム連載を始めるにあたって、SPA!編集部から口酸っぱく言われたことが、ひとつだけある。
「前任の勝谷さんのコラム、書籍化もされていて読めますけど、読んじゃダメですよ」
「菅野さん、あれこれ読むの知ってるけど、勝谷さんの原稿とか、追いかけちゃだめですよ」
つまりは、週刊SPA!の巻頭コラムを長年に渡り担ってきた勝谷誠彦氏を意識するなということだ。
「菅野さんの色を出せばいいから、『前任者との連続性』や『テイストの一致』とか意識するのは、かえってマイナス。好きなように書いてくれればいい」と丁寧な解説をしてくれる編集部員もいた。
だが、私はその「お言いつけ」を一切守らなかった。
SPA!は若い頃から読み続けているものの、書き手に回ってからというもの、それまで以上の熱心さで読み込むようになり、勝谷さんが担当していた巻頭コラムの「ニュースバカ一代」を書籍化した『バカが国家をやっている』『坂の上のバカ』などを買い漁り読みふけった。SPA!での過去の仕事だけでなく、グルメ誌や観光誌などに勝谷さんが時折寄稿する原稿まで追いかけ回すようになっていた。勉強のために読み始めたのに、いつしか単純な「ファン」になっていたのだ。
うまい。いや、「うまい」なんて表現は、思い上がった一言であることは十分承知している。が、勝谷さんは、「うまい」としかいいようがないぐらい「うまい」のだ。
正直、政治批評や時評の類いは、居酒屋政談の域を出ずあまり感心するものはない。あんな程度の着想や切り口であれば、そこらへんのオヤジでも書けるだろう。
だが、酒やメシについて書かせれば、当代随一といっていい。なんのことはない場末の寿司屋について書かれたコラムで涙したことや、酒場での会話を原稿で展開するあの巧みな技量にうなったことが何度もあった。「なんでこんな素敵な原稿が書けるのに、なんであんなに政治思想や基本的な人文学の素養が幼稚で粗雑なんだろう」と不思議さが募りにつのって、かえってハマりこむ。そんな循環に私はここ一年陥っていた。
いま、勝谷さんの訃報に接し、虚脱に似た感慨を抱いている。
一度もお会いしたことのない人ではある。おそらくお会いすれば喧嘩をしていた可能性だってある。書いてることの半分以上は同意できないどころか、反感さえ抱く。読んでいて「誰がバカって、お前がバカじゃねーか」と叫んだことさえ一度ならずある。
しかし、しかしである。私は、勝谷誠彦氏ほど、日本語のうまい当代の書き手を知らない。
勝谷さん。ここは私が引き受けた。
ゆっくりと、休んでください。
<取材・文/菅野完>
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『
日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。現在、週刊SPA!にて巻頭コラム「なんでこんなにアホなのか?」好評連載中。また、メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(
https://sugano.shop)も注目されている